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仙台地方裁判所 昭和37年(ワ)530号 判決

原告 吉田敬治郎 外一四名

被告 株式会社七十七銀行

主文

一、原告諸岡、同我妻、同新田、同山田純一、同佐藤、同佐久間、同山田研二、同山田破魔雄が被告との間でそれぞれ別紙第一の三の処分内容欄記載の各処分の付着しない雇傭契約上の地位にあることの確認を求める訴はいずれもこれを却下する。

二、原告吉田、同菅原、同佐々木、同青木、同沼波、同鈴木、同五十嵐と被告との間で同原告らが被告に対しそれぞれ雇傭契約上の地位にあることを確認する。

三、被告は、原告吉田、同菅原、同佐々木、同青木、同沼波、同鈴木、同五十嵐に対し別紙第一の一の「昭和三七年一〇月以降同四四年四月までの賃金および臨時手当総合計金額」欄記載の各金員および同年五月以降毎月五日かぎり同「処分当時の賃金月額」欄記載の各金員の、同諸岡、同我妻、同新田、同山田純一、同佐藤、同佐久間に対し別紙第一の二の「減給額」欄記載の各金員および同金員に対する昭和三七年一〇月六日以降完済まで年六分の割合による金員の支払いをせよ。

四、訴訟費用は、被告に生じた費用について被告と原告山田研二および同山田破魔雄との間においてその一五分の二を同原告らの負担とし、その余を各自の負担とし、被告とその余の原告らとの間において全部被告の負担とする。

五、この判決の第三項は仮に執行することができる。

事実

第一、原告訴訟代理人は、主文第一項掲記の確認の判決および主文第二ないし五同旨の判決ならびに仮執行の宣言を求め請求原因、本案前の抗弁および本案の抗弁に対する各答弁、再抗弁および再再抗弁に対する答弁として次のとおり述べた。

(請求原因)

一、被告は普通銀行業務を目的とする株式会社であり、原告らは、いずれも被告に雇傭されていたところ、昭和三七年九月一八日、被告から別紙第一の三の「処分内容」欄記載の各懲戒処分の意思表示(本件処分という)を受けた。

二、しかしながら、本件処分は次の理由で無効である。

1 懲戒事由の不存在。

被告の就業規則は別紙第二記載のとおりであり、従業員の懲戒事由は第五九条所定のとおりである。しかしながら、原告らには右懲戒事由に該当する如何なる行為も存在しない。すなわち、被告が処分理由として主張する事実は、別紙第四記載のとおり、すべて、虚偽の事実か原告らが所属する訴外七十七銀行従業員組合(従組という)の行なつた適法な争議行為その他の正当な組合活動であつて処分事由に該当しないのである。しかも、被告の右主張自体、本件処分が後述の不当労働行為に該当することを示すものである。かりに、従組の活動が何程か違法であるとしても、それは、従組という組織体が行なつた行為であつて原告ら個人の行為ではないので、本来使用者と労働者との間の個別的労働関係においてのみ認められる懲戒権の対象とならないものである。また、懲戒処分は経営秩序を維持するために認められる制裁であるから、その目的に照し、真に懲戒に値する違法な行為がなければ、懲戒処分を行ない得ないのであり、殊に懲戒解雇は労働者を経営外に排除するものであるから、その者を経営外に排除するのでなければ、真に経営秩序を維持することができないような重大な違法行為がなければならないのである。しかるに、原告らについては、本件懲戒に値するような重大な違法行為は存在しないのである。

したがつて、本件処分は、就業規則所定の懲戒事由に該当する事実がないのになされた無効な処分である。

2 不当労働行為。

被告は、肩書地に本店を置き、営業店として本店営業部、東京、山形、盛岡、平、石巻、塩釜、気仙沼等七七か店、外に四出張所を設け、昭和三七年一一月三〇日当時、資本金六億円、預金高約八二一億円、貸出高約六一七億円、従業員一、七八四名を有する銀行であり、従組は、全国地方銀行労働組合連合会および宮城県労働組合評議会に加盟しているが、もと被告銀行における唯一の労働組合であつて、後記分裂の直前である昭和三六年一〇月二六日当時一、七〇二名の従業員中一、五三一名(その余は非組合員)を擁し、原告らは、それぞれ、別紙第一の三記載の役員たる地位にある者である。

被告は、昭和二一年従組が結成されてから、一貫して従組の組織破壊ないし弱体化工作を行なつてきたが、昭和三二年訴外氏家栄一が副頭取に就任してからは一層強力にこれを押し進め、殊に、昭和三四年六月労働協約の改悪に失敗してからは、従組員に対する職制の支配強化、研修による反組合意識の植付け、従組幹部に対する中傷ないし悪宣伝、従組の活動家に対する不当配転ないし不当差別等従組に対する組織攻撃を一層強化し、更に昭和三六年九月頃からは直接第二組合の結成を策動し、遂に同年一〇月二七日反組合分子を使つて第二組合(七十七銀行労働組合)を結成させ、その後全店にわたつて支店長以下の職制を動員して直接従組の切崩しを行なつたのみならず、第二組合に対し、電信電話郵便料の被告負担、郵便物の現送車託送、時間内組合活動(有給)の無制限な承認等の利益供与を行なう反面、従組に対しこれらのすべてを拒否し、従組員の有給休暇の申請に対し昭和三六年一〇月二六日から翌三七年八月二四日宮城県労働基準局から注意を受けるまで一切これを拒否し、その他、昇給、人事異動等についても従組員を不当に差別するなど、従組に対する組織攻撃を徹底的に行なつたのである。その結果、従組員の数は昭和三八年七月現在一七〇名に激減するに至つたのである。

本件処分は、このような被告の従組に対する組織破壊の総仕上げとして行なわれたものであり、原告らが従組の中心的活動家の故になされた不利益な処分であつて、不当労働行為に該当するものであつて無効である。

3 労働協約違反。

本件処分当時従組と被告との間で締結されていた労働協約は別紙第五記載のとおりであり、右労働協約には第二二条および第二七条所定の同意約款がある。したがつて、被告が従組員を解雇(二二条所定の例外を除く)または賞罰に付するには必ず従組の同意を得なければならないのである。しかも、この同意約款は、人事の権能を使用者の一方的行使に委ねることなく、従組が被告の意思決定に加わることによつて従組員の地位の安定と団結を確保するために設けられたものであるから、従組と被告との取決めでありながら、その効果は個個の従組員に及ぶのであり、労働組合法第一六条にいう「労働者の待遇に関する基準」ないしこれとかかわりを持つ経営参加条項であつて、この規定に違反する人事の発令はその効力を生じないのである。

しかるに、被告は、従組の同意が得られないのに、本件処分を強行したのであるから、その処分は無効である。

三、被告銀行における毎月の賃金の支払日は五日であるが、本件解雇処分に付された原告らの処分当時の賃金月額および基準給与額は別紙第一の一記載のとおりであり、被告は、従組員に対し、毎月の賃金の外、毎年、三、六、九、一二月の四回、その都度従組と協議決定した臨時手当(基準給与額に支給率を乗じたもの)を支給しているが、本件処分後決定された臨時手当の支給率は別紙第一の四記載のとおりであるので、同原告らが本件処分後である昭和三七年一〇月以降同四四年四月までの間支給されるべき賃金合計額および臨時手当合計額ならびに総合計額は別紙第一の一記載のとおりである。

また、本件減給処分に付された原告らが昭和三七年一〇月の賃金から控除された減給額は別紙第一の二記載のとおりである。

四、被告は、本件処分が有効なことを前提として、解雇処分に付した原告らに対してはその雇傭契約の存在を争い、その余の原告らに対しても種種不利益な取扱いをしている。

よつて、解雇処分を受けた原告らは、被告との間で、同原告らが被告に対し雇傭契約上の地位にあることの確認を求め、被告に対し、別紙第一の一の「昭和三七年一〇月以降昭和四四年四月までの賃金および臨時手当総合計金額」欄記載の賃金および昭和四四年五月以降毎月五日かぎり同「処分当時の賃金月額」欄記載の各賃金の支払いを求め、その余の処分を受けた原告らは、被告との間で、同原告らがその処分の付着しない雇傭契約上の地位にあることの確認を求め、減給処分に付された原告らは、被告に対し、別紙第一の二の「減給額」欄記載の各賃金およびこれに対する支払期日後である昭和三七年一〇月六日以降完済まで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

(本案前の抗弁に対する答弁)

解雇以外の本件処分を受けた原告らと被告との間の雇傭契約上の地位に基づく法律関係は、右処分によつて一部変更消滅させられたのであり、現在および将来における被告との間の雇傭契約上の法律関係は、右処分によつて一部変更消滅させられた法律関係のうえに築かれるのである。すなわち、同原告らは、現在、処分当時同格同給であつた者と比較して、格付けの点で役職者と平職員、給与の点で約六割に満たない格差をつけられているのであり、しかもこのような差別は雇傭契約に基づく将来の法律関係において拡大される関係にある。また、現在の紛争を解決するのには現在の法律関係を明確にするのが直せつであるから、確認の訴は現在の権利または法律関係について認められるのであるが、もしそれが現在および将来の紛争の解決に役立つならば、過去の権利または法律関係さらに過去の行為の有効、無効についても確認の訴が許されるのである。したがつて、同原告らに対する被告の不当な差別ないし不利益な取扱いを撤廃させるため、実質において過去になされた本件処分の無効の確認を求め、その無効な処分によつて一部変更消滅させられたものでない雇傭契約上の法律関係すなわち右処分の付着しない雇傭契約上の地位の確認を求める訴は適法である。

(本案の抗弁に対する答弁)

一、同意権の濫用の抗弁について。

1のうち、行賞ならびに懲戒審査委員会規定が有効であること、従組が八月六日の経営協議会で殊更紛議をかもしたこと、従組が、その後の経営協議会において不必要な質問を繰り返し、不誠意極まりない態度に終始し、審議の遷延をはかつたこと、地労委に対する団体交渉斡旋の申請が協議形態のむし返しであることは否認するが、その余の事実は認める。行賞ならびに懲戒審査委員会規定は、本件労働協約締結以前に制定されたものであつて、労働協約第六条に定める従組の同意を得ていないから無効である。また八月六日の経営協議会が実質的審議に入れなかつたのは、従組がテープレコーダーを使用しようとしたのに対し、被告がこれを阻止したため紛議を生じたからであり、しかも従組がこれを使用しようとしたのは、従来とかく被告と従組の記録が相違したので、審議内容を正確に記録しようとしたからであつて、これを非難する理由はない。被告は、正確な記録をとられることによつて、自己の不法不当な行為が白日のもとにさらされるのを恐れたからであつて、このこと自体被告の処分理由が自信のないでたらめであることを示すものである。また本件処分が従組の正副委員長以下中央執行委員六名と支部委員長二名の解雇を含む中央執行委員全員および支部執行委員五名に対する懲戒処分であり、それが従組の行なつた組合活動そのものを理由とするものであつて、従組にとつて重大な問題であるから、従組が経営協議会において被告の認識した事実と論拠を一つ一つ具体的に質問することは当然である。事実、従組の質問によつて、被告の処分理由のあいまいさと矛盾が明らかにされようとしたのである。被告は、後述のとおり、従組と誠実に協議する気持は全くなかつたのであり、従組の質問にまともに答えず、協議がまだ充分なされていない段階で協議打切りの日を一方的に決め、従組が当初から処分理由の詳細な事実を明らかにするよう求めたにもかかわらず、処分提案後二か月が経過し、協議打切り予定日の一週間前になつて漸く長文の処分理由書を提示し、その検討を経ないうちに、本件処分に対する諾否の回答を迫り、さらにその返答を待たないで、一方的に本件処分を行なつたのであるから、被告の方から充分協議できなかつたなどとは言えないのである。従組は、被告からの協議の打切りに対し、その続行を求め、どうしても経営協議会を打ち切るというのであれば、団体交渉を開くように申し入れたが、被告は一方的にこれを拒否したので、やむを得ず、地労委にその斡旋方を申請したのである。以上の経過に照し被告の主張が不当であることは明白である。

2のうち、従組が被告を誹謗する宣伝活動を展開したこと、その他被告主張の違法不当な行為を実行拡大させ、被告に甚大な打撃を与えようとしたことは否認し、その余の事実は認める。従組が不当と考える処分に対し団結して反対するのは労働組合の当然な権利である。被告が問題とする委員長声明は未だ具体的には何も問題を生じなかつたことおよび中新田町のビラが中新田守る会が張つたものであつて、従組が行なつたものでないことは被告の処分理由について答弁したとおりである。しかも被告は右ビラをはがそうとしたこともなく、はがしたかどうか確認しなかつた程であるから、被告自身右ビラ張りが重大なものと考えていなかつたのであり、被告の主張が如何に理由のないものであるかは明白である。

3のうち、従組が本件処分に反対したことは認めるがその余の事実はすべて否認する。

労働協約上の同意約款は、労働組合に対し、使用者の行なう人事について同意するか否かを権利として認めたものであるから、労働組合のその権利行使について使用者がとやかく云うことは本来許されないのである。被告の提案した処分内容は従組にとつてその運命を左右するものであるから従組の同意を求めることが如何に困難であるかは一見して明らかであろう。それにもかかわらず、敢えて従組の同意を求めようとするのであれば、被告は、従組の同意を求めるため最大限の努力をしなければならず、如何なる具体的事実に基づいて何故そのような重い処分をするのか、一点の疑問の余地の残らないよう説明しなければならないのである。もし、従組にとつて納得できない部分が多少でも残る限り同意しないのは当然であつて、そのことの故に従組を非難することは許されない。しかも、被告は、本件処分問題に関する団体交渉の申入れを一切拒否し、経営協議会においても、いちいち具体的に説明する必要はない、それで不同意なら不同意といえ、不同意でも既定の方針どおり処分を発令するのだという不遜な態度で終始したのであるから、このようなみずからの不正を棚に上げた同意権濫用の主張が如何に根拠のないものであるかは明らかであろう。企業が倒産の危機にひんした場合でさえも同意権は尊重されねばならない。まして、本件のように、企業の存立が危機にひんしているわけでなく、業務が通常のとおり行なわれている場合には、従組の同意権は最大限に尊重されねばならないのである。

以上、いかなる意味においても、被告の本件処分の発令は労働協約に違反して無効であり、しかも、同意約款をめぐる被告と従組の交渉の経過によつて、本件処分が従組を破壊するためになされた不当労働行為であることが明らかである。

二、専従の抗弁について。

被告主張の協定が、被告と従組との間で、昭和二六年五月三〇日締結され、その後更新されて昭和三八年五月二二日まで有効に存在したこと(ただし、同日をもつて労働協約が失効したため右協定は効力を失なつた)、右協定によれば、専従者は、職務の関係で休職になり、被告から賃金の支払いを受けられないこと、被告主張の三名がもと専従者であつたことは認めるが、本件処分後専従者であることは否認する。すなわち、右三名の原告は、外二名の者と共に、昭和三六年六月の大会で専従となり、従組からの申出でにより専従休職となつた者であるが、後述のとおり、遅くとも、昭和三七年七月九日には専従解除の効力が生じたから被告の主張は失当である。

三、時効消滅の抗弁について。

被告主張の事実は認めるが、時効消滅の効果は争う。

四、控除の抗弁について。

被告主張の控除の抗弁は時機に後れてなされたものであるから却下されるべきである。かりにそうでないとしても、民法第五三六条第二項、労働基準法第二六条を根拠とする被告の控除の主張は争う。

(再抗弁)

一、専従の解除。

従組は、昭和三六年一一月、中央闘争委員会の決議に基づき、被告に対し、前記五名の専従者のうち、前記三名の原告および外一名の専従を解任したから復職させるよう要求した外再三にわたり同様の申入れをしたが、被告はさまざまな口実を作つてこれを拒否したので、昭和三七年三月二〇日開催された団体交渉の席で、改めて、右四名の専従解除の申出でを行ない、直ちに職場に復帰させるよう要求したが、被告は前記協定と従来の慣行に反して右原告らの職場復帰を拒否した。その後、従組は、昭和三七年七月開催された組合大会で専従者全員の専従解除の決定をし、同月九日被告にその旨口頭で申し出たが、被告はこれに応じなかつた。

しかし、前記専従協定の趣旨、従来の慣行、休職に関する一般の取扱いによれば、専従解除による職場復帰の効力は従組の申出でによつて形成的に生ずるものと解すべきである。すなわち、前記協定は「復職の場合は不利益な取扱いをしない」と定めているのみで、専従解除の点について特別の定めをしていない。しかし、右協定は、「専従者は組合員二五〇名又はその端数につき一名の割合とする」と定めているが、従来、それは専従者の人数の最高限を定めたものと解され、従組はその制限の範囲内で自主的に専従者を決定し、被告は必ずその者を専従者として休職の発令をしてきたのであつて、従組の決定した者について休職の発令を拒否したことはなく、また専従期間については「原則として一年とする」と定めているが、それも従組の自主的判断によつて、ある者は一年未満で職場に復帰し、ある者は二年、三年と長期にわたつて専従者として組合業務に従事し、被告はこれを承認していたのであつて、ことさら従組の決定に異議を唱えることもなく、また被告は従組が専従解除の通告をすれば、遅くとも半月以内には必ず職場復帰の発令を出していたのであり、しかも一般に休職事由の消滅による休職の終了はこれに関する労働者の請求によつて形成的にその効力が生ずるものと考えられているのであるから、従組の本件専従解除の申出でによつて、その者の復職の効力は当然に生じたものと考えるべきである。

かりに、労働者側の復職の申出でが性質上請求権にすぎないとしても、使用者が不当労働行為の意思でこれを拒めば、その拒否は保護されないのであるから、労働者側の請求に応じたのと同様の結論を認めなければならない。そして、被告は、既に述べたとおり、従組を嫌悪する情が極めて強く、原告らの処分を予め考えて、その職場復帰を拒否するため、従組の専従解除の申出でに応じなかつたのであるから、被告が専従解除の申出でを拒否したことは、不当労働行為に該当して無効である。したがつて、従組の申出でに応じたのと同様の効果を認めねばならない。

以上の次第で、被告主張の三名は、遅くとも昭和三七年七月九日に専従者でなくなつたのであり、したがつて、同原告らが専従者であることを前提とする被告の主張は失当である。

二、時効の中断および「悪意の抗弁」。

臨時手当は、基本たる雇傭契約上の地位から派生する具体的賃金請求権の一つであるから、基本たる雇傭契約上の地位の確認の訴が提起され、その訴訟が継続しているかぎり、右臨時手当の消滅時効は中断するのであつて、本件雇傭契約上の確認の訴の提起によつて被告主張の時効は中断した。

かりに、右主張が認められないとしても、被告は、本訴において七年間原告らの主張を争い、その間一度も臨時手当を支払う意思を明らかにしたことがない等の事情を考えると、被告の時効消滅の主張は、ドイツ法上「悪意の抗弁」を主張しうる場合と同様に、排斥されねばならない。

(再再抗弁に対する答弁)

被告の主張事実はすべて否認する。

被告訴訟代理人は、主文第一項同旨の判決ならびに本訴各請求について、請求棄却、訴訟費用は原告らの負担とする、との判決を求め、本案前の抗弁、請求原因に対する答弁、抗弁、再抗弁に対する答弁および再再抗弁として次のとおり述べた。

(本案前の抗弁)

原告諸岡、同我妻、同新田、同山田純一、同佐藤、同佐久間、同山田研二および同山田破魔雄の求める請求の趣旨第一項記載の確認の訴は何時の如何なる権利または法律関係の確認を求めるものか趣旨不明確であり、このような不明確な事項の確認を求める訴は確認の利益を欠くものである。右処分はいずれも過去の一時点になされたものにすぎず、同原告らと被告との間の雇傭契約に基づく現在の法律関係とは無関係である。右請求が、もし減給等による金銭的不利益の回復を求めるためであれば、単的に当該金銭的請求をなすべきであり、またもし右処分がなければ被告銀行内で得たであろう格付ないし役職の確認を求めるものであれば、そのような企業内部における組織上の地位は法律的な地位ではなく確認の訴の対象となり得ないものであるから、そのような格付ないし役職の確認を求める訴は不適法である。

(請求原因に対する答弁)

一、請求原因一の事実は認める。

二、同二冒頭の主張は争う。

1 同1のうち、原告ら主張の就業規則があることは認めるがその余の事実は否認する。原告らに関する右所定の懲戒事由に該当する行為は別紙第三記載のとおりである。なお、従組が、原告ら主張のとおり、三要求のための争議権および組織防衛のためのスト権を確立し従組員二名の処分をしたこと、被告が本件処分当時政暴法反対のための一せいランチおよび指名ストを処分理由としていなかつたことは認める。

2 同2のうち、被告が、原告ら主張のように、従組に対し組合弱体化、組織破壊工作を行なつたこと、殊に、第二組合の結成を策動したり、その結成に支配介入したこと、第二組合成立後従組の切崩しを行なつたこと、従組員を不当に差別したこと、本件処分が被告の従組破壊の意図によつてなされた不当労働行為であることは否認し、その余の事実は認める。

本件処分は、別紙第三記載のとおり、原告らがそれぞれ違法不当な行為に関与しまたはこれを実行したことの故になした正当な処分であり、不当労働行為ではない。また、従組が分裂したのは、原告ら中央執行委員が、階級闘争主義に立脚し、非民主的な方法で批判勢力の台頭を封じ、労働組合主義を著しく逸脱した不当な闘争を展開したからであつて、被告と全く関係のないことである。また、被告が、原告ら主張のとおり、従組員の年次有給休暇を規制し、時間内組合活動を認めず(就労しなかつたときは賃金カツト)組合活動のための郵便電信電話料の被告負担を停止したのは、当時従組とは争議状態にあつたからであり、これは昭和二九年以来行なわれていた慣行に従つたものにすぎない。しかるに第二組合に対してこのような制限をしなかつたのは、当時同組合との間では争議状態になかつたからであつて、不当に差別する意思によるものではない。

3 同3のうち、本件処分が原告ら主張の同意約款に反したことの理由で無効であることを争い、その余の事実を認める。

人事に関する同意約款は一種の経営参加条項にすぎず、したがつて、従組の同意がなくても、被告は一方的に人事を決定し得るのである。

三、同三のうち、本件処分が無効であることを前提とする賃金の支払義務は争うが、その余の事実はすべてこれを認める。

四、同四のうち、被告が本件処分の無効を争つていることは認めるが、その余の事実は否認する。

(抗弁)

一、従組の同意権の濫用。

1 被告は、昭和三七年七月、就業規則第四、六一条、行賞ならびに懲戒審査委員会規定に従つて、賞罰審査委員会に本件処分問題を付議し、同委員会委員長たる副頭取は、同月三日同委員会の構成員二名を代表として選出している従組に対し、処分理由と処分案を付して同委員会の開催を申し入れ、同月一一日まで五回にわたつて同様の申入れを行なつたが従組はこれを拒否し、その都度本件処分問題に関する団体交渉の開催を申し入れて来たのである。なお、従来、右賞罰審査委員会に従組の代表委員が出席して処分に同意した場合は、その同意をもつて労働協約上の同意として扱い、それ以上経営協議会に付議することはしなかつた。

そこで、被告は同月一二、一三、一六日、従組の代表委員の出席がないまま賞罰審査委員会を開催し、同月一七日、処分相当との同委員会の答申を得て処分案を決定し、同月一八日、従組に対し、あらためて労働協約により、従組の同意を求めるための正式な手続である経営協議会の開催を申し入れたが、従組はあくまで団体交渉を開催すべきことを主張して被告の申し入れに応じなかつた。そこで被告は、その後更に数回にわたつて経営協議会の開催を申し入れたが、従組はその都度団体交渉の開催を要求してこれに応じなかつた。しかし、被告の説得が効を奏した結果、従組は、同月三〇日被告に対し名称にこだわらず交渉を進展させるため、提案の趣旨および理由をただし、従組の意見を述べるため経営協議会に出席する旨通告し、ようやく八月六日経営協議会が開催される運びとなつた。

しかるに、従組は同日開催の経営協議会で、殊更、従来の慣行と被告の意に反し、テープレコーダーを持ち込んで紛議をかもすに至つたので、その日は本件処分問題について実質的審理に入ることができなかつたのである。

被告はその後同月八、一七、二〇、二四、二八、三一日、九月一、八、一五日と経営協議会を開催し、従組に対し本件処分理由の説明を行ない、その間、八月二八日には九月一五日までに一切の審議を終えたいから同日までに従組の最終意見を表明するよう通告し、九月七日には処分理由たる具体的事実を文書で提示して審議の促進をはかつたが、従組は、処分理由に関する被告の説明に対し、不必要な質問を繰り返し、九月八日以降は前記意見表明の日限の撤回を要求して実質上の審議を拒否しようとする不誠意極まりない態度に終始し、審議の遷延をはかつたのである。しかも、従組は同月一二日被告には何の連絡もなく、突如として宮城県地方労働委員会に対し、本件処分問題に関する団体交渉開催の斡旋を申請し、既に解決済みの協議形態の問題をむし返そうとさえするに至つた。

しかし、被告は隠忍自重して、前記意見表明の日限を同月一七日まで延長したが、従組は遂にその期限までに意見の表明を行なわなかつたのである。

なお、被告は、同月一四日および一七日の両日、右労働委員会から事情聴取のための出頭要請を受けたが、同委員会に対し、自主的に解決したい旨表明して右要請に応じなかつたのである。

2 他方、従組は七月四日本件処分の提案を受けるや、本件処分に反対することを決め、同月一九日被告に対し右処分案を撤回するよう申し入れ、さらに地銀連および県労評の支援を得て共闘体制を確立し、処分案撤回の署名運動や被告を誹謗する宣伝活動を展開し、別紙第三の第一の一の5記載の違法不当な行為を実行拡大させ、被告に甚大な打撃を与えようとした。

3 本件処分は、別紙第三記載のとおり、客観的に正当であり、しかも、被告は前記のとおり労働協約、就業規則、慣行等に基づいて、誠意をもつて手続を進めたにもかかわらず、従組は本件処分に反対し、いたづらに手続に応ぜず、処分の撤回闘争を遂行し、不当に同意を与えない態度に出たのであつてこれは同意約款の当然の前提である労使間の信義則に反し権利の濫用となるものである。

したがつて本件処分は従組の同意を得ないでなしたにもかかわらず、その同意があつたのと同様、同意約款を完全に履践したものといわねばならず、労働協約違反を理由として本件処分を無効とする原告らの主張は失当である。

二、専従。

被告は、従組との間で締結した別紙第六記載の「組合業務専従者の取扱いに関する協定」により、従組の専従者に対しては、休職を発令し、給与の支払義務を負わないのであるが、原告吉田、同青木および同鈴木は本件処分前から現在まで、従組の専従者であつて休職中の者であるから、本件処分がかりに無効であるとしても、同原告らに対しては賃金の支払義務を負わない。

三、臨時手当の時効消滅。

原告ら主張の臨時手当は労働基準法第一一五条により二年の消滅時効にかかるのであるが、右臨時手当の支給日は左記一覧表記載のとおりであるから、関係原告らの請求する臨時手当のうち、昭和三七年一二月以降四一年九月までの臨時手当債権は本訴において追加請求のあつた昭和四四年四月二三日にはその支払期から既に二年以上が経過しているので、時効により消滅したものといわねばならない。

臨時手当支給日一覧表

臨時手当の表示

上記手当の支給日

(昭和 年 月 日)

臨時手当の表示

上記手当の支給日

(昭和 年 月 日)

昭和三七年度年末手当

三七、一二、一五

昭和四〇年度年末手当

四〇、一二、一五

同・下期 期末手当

三八、  三、二〇

同・下期 期末手当

四一、  三、一八

昭和三八年度夏期手当

三八、  六、一五

昭和四一年度夏期手当

四一、  六、一五

同・上期 期末手当

三八、  九、二〇

同・上期 期末手当

四一、  九、一六

同 年末手当

三八、一二、一四

同 年末手当

四一、一二、一五

同・下期 期末手当

三九、  三、一九

同・下期 期末手当

四二、  三、二〇

昭和三九年度夏期手当

三九、  六、一五

昭和四二年度夏期手当

四二、  六、一五

同・上期 期末手当

三九、  九、一九

同・上期 期末手当

四二、  九、一四

同 年末手当

三九、一二、一五

同 年末手当

四二、一二、一五

同・下期 期末手当

四〇、  三、二五

同・下期 期末手当

四三、  三、一九

昭和四〇年度夏期手当

四〇、  六、一五

昭和四三年度夏期手当

四三、  六、一四

同・上期 期末手当

四〇、  九、二〇

同・上期 期末手当

四三、  九、一〇

四、解雇期間中に得た収入の控除。

労働者に対する解雇が無効な場合でも、その労働者が解雇期間内に他の職について利益を得た場合には、民法第五三六条第二項但書および労働基準法第二六条により、使用者は労働者に対して支払うべき解雇期間中の賃金から、平均賃金の四割の限度で右利得金を控除しうるのであるが、左記原告らは、左記収入表記載の職に就いて同記載の各収入を得ているから、同原告らの請求する賃金額の四割の範囲内で右収入金を控除しなければならない。

収入表(一)

関係原告氏名

収入総金額

収入期間

収入場所および原因

吉田敬治郎

金七三万三、〇一三円

昭和三七年九月一八日より

昭和四三年三月三一日まで

仙台市南町通一三番地 宮城県労働組合評議会常任オルグ

青木卯三郎

金一、六四万二、一九〇円

仙台市北一番丁一〇九番地 宮城県農業協同組合労働組合書記

沼波彊二

金一八万〇、〇〇〇円

仙台市東二番丁九七番地 七十七銀行従業員組合書記局内宮城県金融労働組合共闘会議事務局長

鈴木楫吉

金二、三五万九、三六〇円

仙台市東二番丁九七番地 七十七銀行従業員組合書記局内地銀連東北地区協議会事務局長

五十嵐幸雅

金二、四〇万〇、〇〇〇円

東京都港区青山南町六の一二〇番地 金融労働組合共闘会議事務局書記

収入表(二)

関係原告氏名

昭和四三年四月一日以降の年間収入額

収入場所及び原因

吉田敬治郎

金七五万〇、〇〇〇円

別表(一)の「収入場所及び原因」欄記載と同じ

青木卯三郎

金七〇万〇、〇〇〇円

鈴木楫吉

金七六万〇、〇〇〇円

五十嵐幸雅

金六〇万〇、〇〇〇円

(再抗弁に対する答弁)

一、専従解除の再抗弁について。

原告らの主張事実のうち、被告が昭和三七年三月二〇日従組から右原告ら三名の専従解除の申出でを受けたこと、被告が今日まで休職解除の発令をしないことは認めるが、原告主張の慣行、従組の申出でのみによつて専従解除による職場復帰の効力が生ずること、被告の復職拒否が不当労働行為に当ることは否認する。すなわち、専従解除の点については被告と従組との間に、特別の協定ないし取決めはないが、従来、被告は従組から専従解除の申出でを受けると復帰すべき職場如何、その復帰に伴う関連人事等の諸問題を検討し、経営協議会に付議すべき事項はその決定を得たうえ休職解除の発令と職場復帰の命令を出していたのであつて、このような従来の慣行からして、被告が休職解除の発令をしないかぎり専従解除の効力を生じないものと考えるべきである。

なお、同原告らは、訴状において、みずから専従者であることを主張したが、これは先行自白に当るのであつて、被告が答弁書および昭和三七年一二月二〇日付準備書面でこれを援用した以上、同原告らは勝手にその主張を撤回できないのである。しかるに、同原告らは昭和四三年一一月一五日付準備書面で自白の撤回にあたる専従解除の主張をするので、被告はこれに異議を述べる。

二、時効の中断と「悪意の抗弁」について。

本訴提起の事実は認めるが、その余の事実はすべて否認する。

(再再抗弁)

専従の問題は、単に従組だけの問題ではなく、前記のとおり職場の再編成、関連人事の決定発令等被告にとつて極めて重要な関心事項であるので、被告側の事情を無視した恣意的一方的解除の申出では、労使間の信義則に反してその効力を生じないのであり、従組のなした前記申出では被告の事情やこれまでの慣行を無視した恣意的一方的申出でであるからその効力を生じないのである。

かりに、そうでないにしても、被告が従組からの前記解除の申出でに対し、争議最中であり、専従期間も継続中であるから右申出でに応じられない旨回答したところ、従組はその申出でを撤回し、その後右三名の専従扱いを継続したのである。したがつて右原告らについてはいまだ専従の効力が存続しているのである。

(証拠省略)

理由

一、原告諸岡、同我妻、同新田、同山田純一、同佐藤、同佐久間、同山田研二および同山田破魔雄はそれぞれ別紙第一の三の処分内容欄記載の各処分の付着しない雇傭契約上の地位にあることの確認を求めるので、まず、その訴の適否について判断する。

確認の訴は原則として特定の権利または法律関係の現在における存否について許されるのであつて、特別の規定のないかぎり単なる事実または過去の法律関係の存否の確認の訴は許されないのであり(例外は証書の真否に関する確認の訴)、また訴は原告の主張の当否について裁判所の審判を求めるものであるから、確認の訴を提起する原告は裁判所に対し現在における如何なる権利または法律関係の存否の確認を求めるのかをその訴において特定しなければならない。したがつて、もし、その訴が審判の対象である権利または法律関係に関する主張の特定を欠く場合にはその訴は不適法として却下されねばならない。

ところで、雇傭契約は基本的には当事者の一方が相手方に対して労務に服することを約し相手方がこれに報酬を与えることを約することによつて成立するのであるが、労働という継続的給付を目的とするものであるから、その契約関係はいわゆる継続的契約関係であつて、一面において、被雇傭者が雇傭者に対しその指揮命令に従つて継続的に労務を供給すべき基本的抽象的権利義務の関係(いわゆる従業員としての状態的地位)を観念しうると同時に他面において、これを前提として日日一定の時間従属労働を提供すべき派生的具体的権利義務の関係(労務提供過程)とを観念することができる。したがつて、雇傭契約上の地位なるものはこの雇傭契約の二面性に対応する基本的抽象的権利関係と派生的具体的権利関係の両者を含む包括的法律関係と観念しうるのである。そして企業における雇傭契約には生存権原理に立脚する労働法が適用(雇傭契約は労働法において労働契約と観念される)される結果、雇傭者と被雇傭者との間の法律関係(労働関係)の具体的内容は雇傭契約以外の労働協約、就業規則等の自治法または労働基準法等の労働者保護法によつて規律決定され、雇傭契約そのものによつてその内容が定められることはきわめて少いのである。したがつて、解雇その他の事由によつて雇傭契約の存否が関係者間で争われている場合でも前述の包括的法律関係としての雇傭契約上の地位の存否が確定されれば、その契約関係の内容ないし具体的個別的権利関係は前記自治法ないし保護法によつておのずから定まるので、右包括的法律関係としての雇傭契約上の地位の存否さえ判決で確定されれば自から紛争が解決される結果、それ以上個々の具体的個別的権利関係の確認までする必要をみないのである。しかしながら、もし雇傭契約関係の内容たる具体的個別的権利関係についても争いがある場合にはこれを判決によつて確定する必要のあることは当然であつて、その場合には、前記一般原則に従って如何なる権利または法律関係の確認を求めるものであるかを原告の主張において個別的具体的に特定しなければならない。しかるに、右原告らは減給、譴責、昇給停止または降格処分の付着しない雇傭契約上の地位の確認を求めるというのであるが同原告らと被告との間の雇傭契約関係そのものが存在することは当事者間に争いがなく、同原告らは減給等の具体的処分とのかかわりにおいてその法律的地位の確認を求めているのであるから、右確認の訴が前記包括的法律関係たる雇傭契約上の地位の存在の確認を求める趣旨であると解することはできず、もしその訴が包括的法律関係たる雇傭契約上の地位の確認を求める趣旨であれば訴の利益を欠き不適法である。しかも、右各処分の付着しない雇傭契約上の地位なるものが如何なる地位ないし法律関係であるかについては右原告らの全主張によるもこれを特定することができない。もつとも、同原告らは、右処分によつて被告との雇傭契約に基づく法律関係の一部が変更消滅し、その結果、右原告らは、現在右処分当時同格同給であつた者と比較して、格付けの点で役職者と平職員との格差をつけられ、給与の点で約六割に満たない不利益を受けている旨主張するが、もし右処分によつて生じた不利益の救済を求めるのであれば、減給処分を受けた原告らが減給された賃金の支払いを求めているのと同様、単的に、右処分によつて生じた現在の特定の法律効果ないしその法的地位の主張をなすべきであつて、かつそれで足りるのである。なお、役職たる地位は通常は雇傭者に提供された労働の企業内部における位置付けの問題に過ぎないから、単なる事実問題であつて、確認訴訟の対象とはなり得ないものであるが、特にそれを労働条件の一つとして合意したような場合には権利ないし法律上の地位の内容となりうるので、あながち役職たる地位の確認を求める訴を不適法とすることはできない。また、同原告らは、その確認の訴が実質的には過去になされた右処分の無効の確認を求めるものであると主張するが、もし右訴の趣旨がそのようなものであれば、それは処分の意思表示の無効すなわち単なる事実の確認を求めるものにすぎないから不適法である。

また右原告らは、同原告に対する不当な差別ないし不利益な取扱いを撤廃させるためにこのような訴が必要である趣旨の主張をするが、もし被告が右処分による就業規則所定の効果(その救済のためには単的にその処分による法律効果の主張をなすべきことは既に述べた)以上の不利益な取扱いをなすのであれば、それはもはや右処分と無関係な別個の原因事実に基づくものとみなければならないから、たとえ事実の確認が許されるとの立場に立つても右処分の無効の確認を求める利益は存在しないのである。

以上の次第で、右原告らの求める確認の訴は不適法としてこれを却下しなければならない。

したがつて、以下原告吉田、同菅原、同佐々木、同青木、同鈴木、同五十嵐の被告との各雇傭契約上の地位の確認の訴ならびに同山田研二および同山田破魔雄を除く原告ら(以下単に原告らという)の各金員の支払いを求める訴について判断することとする。

二、原告らが、それぞれ被告に雇傭されていたところ、昭和三七年九月一八日、被告から本件各処分を受けたことはいずれも当事者間に争いがない。そこでまず右各処分の効力の存否について判断する。

1  懲戒事由の存否。

(一)  被告の就業規則が原告ら主張のとおりであることは当事者間に争いがない。

ところで、労働基準法第八九条第一項第八号は使用者が制裁の定めをする場合にはその種類および程度に関する事項を就業規則に記載すべきことを要求している。このことは、企業における秩序維持の必要性から、同条所定の就業規則による労働者の企業秩序ないし服務規律違反に対する使用者の懲戒権を法認したものと解すべきである。すなわち、使用者は、就業規則によつて職場の秩序を維持し、多数の労働者が個別的に提供する労働力を企業目的にそうよう受領し、これを生産労働にと統轄処分する。このように、就業規則は、個別的労働関係を前提とし、企業における秩序と生産性とを維持するものである。そして、企業における秩序を確保維持するためには、必然的にこれに違反する者に対する制裁を必要とする。労働基準法はこのような企業における秩序維持のための懲戒の必要性を認め、労働者保護の目的からその秩序化明確化を要請したものと解すべきである。したがつて、就業規則に定める懲戒事由に該当する事実が存在しなければ労働者を懲戒処分に付することができず、就業規則の定める規準以上に重い懲戒処分を行ない得ないものと解すべきである。また、懲戒は個別的労働関係において遵守が期待される就業規則ないし服務規律違反について個別労働関係の主体たる地位においてその責任を問うものであるから、集団的労働関係にある労働組合の活動に参加した組合員の行為は、それが正当な組合活動であれば勿論、たとえ団体として違法な行為(殺人、放火、暴力行為等その違法が明白かつ重大でもはや社会的に組合活動と評価できない行為をいうのではない)であつても、労働組合の行為として不可欠のものと認められるかぎり、これを組合員個人の行為として懲戒責任を問い得ないのである。もし、組合の活動として行なつた行為についてまで個人責任を追求できるとすれば、規律と統制を基礎とする団結の破壊を招く結果となるからである。その意味で組合の活動として行なつた行為について懲戒責件を問い得ないということは団結権保障の法理の当然の帰結といわねばならない。とりわけ、争議行為は、集団的性質が最も強く、しかも使用者の労務指揮から組合員の離脱において始めて成立するものであるから、服務規律によつて企業秩序の確立する基礎自体が失なわれているのであつて、たとえそれが前述の意味で団体的に違法であるとしても、服務規律違反を理由とする懲戒権の行使は許されないのである。このことは、組合幹部が機関活動として行なう行為についても当然いえるのであつて、組合幹部の故に使用者との関係で特別に重い企業秩序維持に対する責任を負うべき合理的根拠はなく、したがつて、組合幹部がその権限と義務とに基づいて行なう行為、例えば争議行為の企画、提案大会における推進、争議中の指令、指導等はたとえその争議行為が違法であつても、機関の活動として団体たる組合自身の行為と評価すべきものであるから、個人として使用者から懲戒責任を問われるべき性質のものではない。一説には民法第四四条第一項を根拠にいわゆる幹部責任を肯定する見解があるけれども、同項は主として財産取引を念頭においた規定であつて、その責任も損害賠償の範囲に限られるのであるから労働組合の基本的、第一次的目的活動たる争議行為その他使用者との対抗関係における組合活動についてまで、懲戒責任を問いうる根拠規定とはなりえないものである。そもそも労働組合は使用者との団体交渉を通じて個々の組合員と使用者との間の労働関係を規制するだけでなく、組合員相互の連帯意識のうえに立つて、組合員の経済的法律的諸生活領域にわたつて、広く深く関与するものであつて、主として対外的財産取引を本来の目的とする市民法上の団体とその性格を異にするのであり、しかも本来の目的たる使用者に対する活動とりわけ争議行為は組合幹部の活動を含めた組合員全体の活動によつてはじめて組合活動として具現しうるという特殊な構造をもつのであるから、組合の争議行為について財産取引の面における法人の代表ないし代理の観念をいれる余地はないのである。また法律上の責任は自己のなした違法な行為について生ずるとするのが近代法における基本原則(行為者責任、自己責任の原則)であり、法律上特別の規定のないかぎり他人の行為について当然にその責任を負うべきいわれはない。このことは懲戒責任についてもいえるのであつて、労働組合の役員なるが故に組合員の行なつたすべての行為について当然に懲戒責任を負わねばならない法律上の根拠はない。以上の次第で労働組合の行なつた争議行為が違法である場合、あるいは個々の組合員が違法な争議行為を行なつた場合等、組合幹部なるが故に当然懲戒責任を負わねばならないとするいわゆる幹部責任論は否定しなければならない。また使用者が、このように本来組合幹部として責任を問い得ない事項について組合幹部として懲戒責任を問うこと自体不当労働行為に該当するものといわねばならない。

以上のことを前提として以下被告が処分理由として主張する事実の存否ないし懲戒理由の当否について順次検討していくこととする。

(二)  別紙第三の第一の一について。

(1) 政暴法反対闘争について。

ア、従組が、被告主張のような経過を経て、政暴法反対のため被告主張のような署名活動等および自転車・バイク行進を行つたこと(但し、築館支店における昭和三六年一〇月二六・七日の署名活動等ならびに被告主張の活動が職場の無断放棄となることは除く)、同月二五日から二九日まで時間外休日勤務協定締結拒否、同月二六日から二九日まで宿日直勤務拒否、同月二六日から同月末日まで被告主張のリボンを着用したこと、その他目的の点はしばらくおき被告主張のような時間外休日勤務拒否、一せいランチおよび指名ストを行つたことはいずれも当事者間に争いがない。

被告は従組か原告らの認める一〇月末日までのみならず、その後も政暴法反対のための争議行為を行つた旨主張し、証人今野英雄(第二回)、同渡部勉および同菊地信三の各証言中には右主張にそう証拠があるけれども右各証拠は成立に争いのない乙第二八五号証の二および原告佐々木栄市(第二回)本人尋問の結果に照して信用できず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。そして、従組が第六三回組合大会においていわゆる三要求のための争議権を確立し、同月二六・七日に開催された臨時大会において、いわゆる組織防衛のためのスト権を確立し、同二七日従組が分裂して第二組合が結成されたことはいずれも当事者間に争いがなく、右事実と前記反対証拠とを総合すれば従組はおそくとも、昭和三六年一一月一日以降政暴法反対のための争議行為を行なわなかつたことが認められる。

イ、しかも従組の行なつたとする政暴法反対闘争は被告の主張によるも、すべて組合規約に従つて適法になされた組合大会の決定に基づく争議行為であつて従組自身の行為と目すべきものであるから、前述のとおり、たとえ被告主張の原告らが従組役員としてこれに関与したとしても、これを理由に同原告らを懲戒処分に付することはできないのである。もつとも、被告は組合大会における政暴法反対のための争議権の可決が、その前提たる支部段階において一部の支部でその争議権を否決したのに、その支部選出の代議員が組合大会で賛成の表決をしたことをもつて組合規約第四九条に違反するものであると非難し、被告主張のような規約のあることは当事者間に争いがなく、その規定のように、支部選出の代議員が支部所属の組合員の意思を公正に反映しなければならないことは組合の民主主義の原則上当然であるが組合大会における審議ないし決議は、支部組合員の意見の代弁ないしその算術的集計にとどまるものではなく、支部組合員を含めた一体としての組合全体の利益のため組合の統一的意思を形成するものであるから、代議員は支部組合員の特定の意思に拘束されるものではなく自己の良心に照し、支部組合員を含めた組合全体の利益のため審議ないし決議をなすべきであつて、これこそが代表制度の本質であり、組合規約第四九条の意味もこれと別異に解釈すべき事情は見当らない。したがつて、支部選出の代議員が支部組合員の決議と異なる表決をしたからといつてこれを組合規約に違反するものとして非難することはできず、しかも、元来組合員以外の者が組合の規約違反を問題とすること自体、組合自治の原則に反して許されないのである。

ウ、また、従組の行なつた政暴法反対闘争は以下述べるとおり正当な争議行為ないし組合活動であるから、これを理由に懲戒処分にすることはできないのである。すなわち、

(a) 被告は従組の行なつた政暴法反対闘争が本来労使間の交渉事項に該当しない事項を目的とするものであるから憲法第二八条の保障を受けない違法不当な争議行為であると主張する。しかしながら、憲法第二八条は「勤労者の団結する権利及び団体交渉その他団体行動をする権利は、これを保障する」と規定し、使用者との団体交渉により解決に親しむ事項のみについて団体交渉その他の団体行動をする権利を保障するといつていないのであるから、労働組合の行つた行動の目的が労使間の交渉事項に該当しない事項であるからといつてただちに憲法二八条の保障を受けないものと考えるべきでない。同条は性質上憲法第二五条の生存権の保障を労働者の社会的地位に即して具体化したものと解すべきであつて、労働者の団結ないしその目的活動はこれにより労働者が健康で文化的な最低限度の生活を営む目的に奉仕するものでなければならない。そして労働者は使用者に雇傭されて生活するものであるから、このような目的を達成するためには、使用者と対等の立場に立つて、労働条件の維持改善をはかることが最も重要かつ通常の手段であるので、団結ないし団体行動の目的が労働条件の維持改善を通じて労働者の人たるに値する生活を確保するにあることはもちろんである。しかし、労働者の人たるに値する生活の確保は、単に労働条件の維持改善のみでなく、労働者の社会的一般的地位の向上にまたねばならないので、労働条件以外の一般的経済的条件、たとえば労働法上もしくは社会政策上の現在または将来の労働者の利益の擁護等およそ労働者の社会的経済的な生活上の地位を向上せしめるために必要な行為は、たとえそれが政治的領域に属するものであつても、すべて団結ないし団体行為の目的となりうるものと解さねばならない。そして労働組合法第二条も「労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ること」をもつて労働組合の目的とすることを規定し、このことを認めているものと解しうるのである。

そして、成立に争いのない乙第二二三号証(なお、修正後の法案については法律時報資料版第九号による。)によれば、政暴法は政治的暴力行為すなわち政治上の主義もしくは施策または思想的信条を推進し、支持し、またはこれに反対する目的をもつてする殺人、傷害、逮捕、監禁、強要、集団的暴行脅迫、器物損壊等の暴力行為を防止するため、団体の役職員または構成員が、団体の活動に関し、または団体の目的実現に資するため、右政治的暴力行為を行つた場合、あるいは団体活動としてこれを行なつた場合等において、所定の要件のもとに、公安審査委員会が、団体に対し、役職員または構成員の団体のためにする行為の禁止、あるいは集団的示威運動、集団行進または公開の集会の禁止、機関紙の印刷頒布の禁止等の団体活動の制限をなしうること等の規制措置や刑罰の加重を規定したものである。そして政暴法は、特に濫用をいましめる旨の規定を設けてはいるが、濫用防止の点について手続上必らずしも充分な配慮がなされておらず、関係機関の運用如何によつては、労働者の正当な団結ないし団体活動が不当に制限される結果を生ずる虞れがないとはいえない。そこで労働者がこのようにその成立によつて自己の団結ないし団体行動権を不当に制限される結果が生じないともかぎらない法案に反対することは労働者としての利益擁護の目的内の行為といわねばならず、したがつて、本件政暴法反対闘争がその目的において違法ということはできないのである。

(b) もつとも目的において正当な争議行為も、その態様において社会的に許される相当性の限度を越えればもはや正当な争議行為として労働法上の保護を受けられないのである。しかしながら、従組の行なつた政暴法反対の争議行為はその態様において以下に述べるとおり、表現の自由の問題としてさえ許される程度のいわゆるデモストの域を出ないものであつて、到底不当な争議行為とはいえないのである。ことに時間外休日勤務協定拒否、宿日直拒否、リボン着用および一せいランチはそれ自体正当な行為であつて争議行為としての法適合性を吟味する必要をみない行為である。すなわち、

(イ) 労働者が時間外休日勤務協定の締結を拒否することは労働基準法で保障された労働時間、休日に関する基準を遵守することを意味するのであつて、その法意からして協定の締結を強制されるべき理由は全くない。しかも右協定の締結は、使用者が労働者に時間外休日勤務を命じても労働基準法違反に問われないという免責条件にすぎないのであつて、労働者の時間外休日勤務の義務を生ぜしめるものではない。また労働協約ないし就業規則に個々の労働者の残業を義務づける規定があつたとしても、労働基準法が保障する労働条件を低下させるような義務は労働協約ないし就業規則によつてもできないので、残業義務を生ずるのは個々の労働者が合意した場合にかぎるのである。したがつて時間外休日勤務協定締結拒否ないしは勤務拒否を就労義務違反として非難することはできない。

(ロ) 通常の業務に従事する者の宿日直については、たとえそれが密度の薄い軽易な労働であるとしても、労働者保護のため、労働時間、休憩および休日に関する最低基準を法定した労働基準法の趣旨に照らし本務として監視断続労働に従事する者と同様に労働基準法第四一条を適用することはできないのであつて、使用者が労働者に宿日直を命ずるためには少くとも労働基準法第三六条による残業協定の締結を必要とするのである。かりに、労働基準法第四一条の適用を認め、使用者が同法施行規則第二三条の許可を得たとしても、それは使用者が労働者に宿日直勤務を命じても労働基準法違反に問われないという免責条件にすぎないのであつて、当然に労働者の宿日直義務を生ぜしめるものではない。しかも当事者間に争いのない被告と従組との労働協約ないし被告の就業規則には宿日直義務を規定した条項はなく(就業規則第三四条は、いまだ宿日直義務を規定したものとは解されない。)、したがつて、宿日直義務は個々の労働者の合意を必要とするのである。そうだとすれば、宿日直を拒否したからといつて前同様これを就労義務違反として非難することはできないのである。

(ハ) 被告が後記のとおり銀行業務を行なうものであつて政治的に無関係であることを考慮しても、被告主張のリボンが従業員の労働義務の遂行に支障をきたすものとは考えられず、また、被告主張程度の色ないし大きさのリボンの着用自体は社会的に容認しうるものであり(例えば銀行等において従業員が貯蓄増強等の業務用のリボンを着用することは一般に行なわれているのであつて、リボンの着用それ自体が許されないものと考えるべきではない)、したがつて、そのリボンの着用が顧客に不快感を与えるものとも考えられない。しかも被告主張のリボンの記載内容はそれ自体被告の業務とは無関係であり、被告の業務の妨害ないし企業イメージをそこなうものとは考えられない。そうだとすれば、従組員が就業時間中被告主張のリボンを着用したからといつて就労義務違反ないし職場規律違反としてこれを非難することはできないのである。

(ニ) 一せい休憩は労働基準法上の基本原則であり(同法第三四条第二項)、金融事業についてはその例外が認められている(同法第四〇条第一項、同法施行規則第三一条)けれども、労働基準法の例外は交替休憩させても労働基準法違反に問われないという意味で免責条件にすぎず、当然に交替休憩を義務づけるものではない。そして被告の就業規則第二五条第一項は一せい休憩を原則として保障しているのであり、同条第二項は交替休憩に関する特定性を欠き、個々の労働者に交替休憩を命じたものとは解されず、またこれを命じうる根拠ともなり得ないものと解されるので、交替休憩を命じうるためには個々の労働者の合意を必要とするのである。そうだとすれば、従組員が一せい休憩をとつたからといつてただちにこれを非難することはできないのである。

(ホ) したがつて、一〇月末日までのその余の行為についてたとえ被告主張のような上司の許可が得られなかつたとしても、その行為の態様が争議行為として相当でないという余地はなくいわゆるデモストの域を出ないものとして正当といわねばならない。

なお、被告が本件処分当時一せいランチおよび指名ストをその処分理由としていなかつたのに本訴においてはじめてこれを処分理由として主張するに至つたことは当事者間に争いがない。そして懲戒事由の存否が訴訟で問題になつたときはそれは客観的に判断しなければならないから、たとえ訴訟以前に当事者が問題としなかつた事実でも、その訴訟で特に時機におくれたものでないかぎり、当然にその主張が制限されるべきものではない。しかしながら、被告と従組との間には後記のとおり同意約款があつてその履行を怠つた懲戒処分は無効と解すべきであり、懲戒事由を認識したうえでなした同意でなければ真の同意とはいえないので被告が従組員を懲戒処分に付するには少くとも懲戒事由たる事実を従組に告げなければならず(どのような態様で告げるかは別として)もし、これを怠ればその事実を理由に懲戒処分を行ない得ないものと解すべきである。また、使用者が懲戒権を行使するためには少くとも懲戒事由に該当する事実の認織を必要とするのであつて、もしその事実の認織を欠けばその事実に関するかぎり懲戒権行使の性格を有しないものといわねばならない。したがつて右同意を求める過程においてその事実を懲戒理由としていなかつたならば、その事実については懲戒権を行使する意思でなかつたことが推認されるのであり、したがつて後日新な事実を懲戒理由として追加すること自体他の意思を推認せしめるものといわねばならない。

そうだとすれば、被告主張の一せいランチおよび指名ストについては、そもそも不当労働行為その他原告ら主張の無効事由が存在しないときにはじめて懲戒理由としての当否を判断すれば足りることである。

(2) 不当宣伝について。

被告主張の日、従組が分裂して労組が成立したこと、従組の教宣部が乙第一二号証の一ないし四、一二、一三と同じビラを多数作成し、従組各支部がこれを一般に配布したほか、同号証の五ないし一〇、一五と同じビラを多数作成してこれを配布(同号証の五、七、八、一〇と同じビラの作成配布が他の団体と共同で行なつた点はしばらくおく)したこと、従組員によつて被告主張のステツカーが石巻市等に貼布されたこと、平支部従組員によつて被告主張のマイク宣伝が行なわれたことはいずれも当事者間に争いがない。

成立に争いのない乙第一二号証の一ないし四、一二、一三によれば、これらビラの作成配布が従組の宣伝活動として行なわれたことは容易に推認しうるところである。そして懲戒が労働契約を基礎とする個別的労働関係における就業規則ないし服務規律違反に対して科せられる制裁であるから、個別的労働関係としての地位を離れて団体たる労働組合の活動として行なつた組合員の行為については、そもそも懲戒責任を問い得ないものであることはすでに述べたとおりであるので、たとえ右原告らが右ビラの作成配布に関与したとしても、その原告らの行為について懲戒責任を問うことは許されないのである。

しかも労働組合の行なつた行為が憲法の保障する団体行動権の行使の範囲内のものであれば、如何なる分野においてもこれを違法とすることは許されないのであり、労働組合の行なう宣伝活動の当否を決するにあたつては、前記団結権ないし団体行動権の保障の立法趣旨にのつとり、組合活動の特殊性、前後の事情、宣伝内容の全体の意味等客観的総合的に判断しなければならない。元来組合活動は使用者との対抗関係において行なわれるものであるから、組合の情宣活動が内容において暴露的、表現において攻撃的傾向を帯びるのは当然のことである。そして団結権ないし団体行動権が労働者の生存のため対使用者との対立抗争を承認したものである以上、これら暴露的攻撃的宣伝活動もその目的に必要な限度で許容されるものと解さねばならない。また労働組合がその利益を守り、目的を貫徹するためには、企業内闘争にとどまらず、同一地域、同一産業等企業外の労働者の支援共闘や一般市民の世論の支援を必要とするのであるから、これら外部の人々に対する宣伝活動も団結権ないし団体行動権の保障上許されねばならない。そして前記乙第一二号証の一ないし四、一二、一三によれば、これらのビラの記載内容は、すべて、従組の分裂が被告の支配介入によつて行なわれたこと、訴外七十七銀行労組(第二組合)が被告の御用組合であること、従組に対して弾圧が行なわれていること、しかも個別的具体的事実によつてそれが明らかであること、従組に対する労働者、市民または家庭の理解と支援を求める趣旨のいずれかにつきるのであつて、被告の業務と直接関連するものではなく、その記載の意図もことさら被告の営業ないし企業上の名誉、信用をそこなう目的に出たものではなく、従組の分裂に際し、従組の団結擁護そのものを目的としたものと認めることができるのである。しかも従組の分裂が被告の支配介入によつてもたらされたことは後記認定のとおりであるから、右ビラの内容は大綱において真実を伝えるものであり、部分的には措辞妥当でないものもみられないではないが、個別的事実の記述はすべて被告の介入弾圧の徴憑として述べられているのであるから、その具体的事実の存否を検討するまでもなく、右ビラの作成配布は全体として正当な組合活動の範囲内のものといわねばならない。したがつて、原告らがたとえこれらのビラの作成配布に関与したとしても、それを理由に原告らを懲戒処分に付することはできないのである。

また、本件全証拠によるも、乙第一二号証の五ないし一一、一四と同じビラの作成配布、被告主張のステツカーの貼布およびマイク宣伝について、右原告らが具体的に関与したことを認めるに足りる証拠はないので、これら宣伝活動の内容の当否について判断するまでもなく、その宣伝活動を理由とする右原告らの懲戒処分の主張は失当といわねばならない。

(3) 不法侵入について。

被告が、昭和三六年一〇月三〇日以降、その主張の張紙をし、従組からの各店舗内施設の使用の申出でに対し被告主張のような制限をしたことはいずれも当事者間に争いがない。そして被告はその主張の原告らの懲戒事由(幹部責任)として、右張紙ないし銀行施設の利用の制限に違反したことを挙げるので、まずその張紙ないし銀行施設使用の制限の当否について検討する。そもそも使用者は、企業施設の所有者ないし管理者としてこれを保持運営する自由を有するけれども、労働者の団結権ないし団体行動権を不当に制限するような形でこれを行なうことは権利の濫用として許されないのである。他方労働者が組合活動といえども無制限ではないのであつて、それによつて職場規律ないしは企業利益が不当に侵害されるような態様の行為は原則として許されないのである。したがつて、使用者の施設管理権の行使あるいはこれとのかかわりにおける労働者の組合活動の正当性を判断するにあたつては、双互の利益衡量ないし必要性等を考慮して客観的総合的に判断しなければならない。ところで、証人今野英雄の証言(第二回)によつて真正に成立したものと認められる乙第一六五号証、同証言、証人阿部光雄(第二回)の証言および弁論の全趣旨を総合すれば、被告が全店に張つた右張紙は従組が加盟している地銀連加盟の労組員および地区労等の他労組員が従組支援のオルグ活動等の組合活動のために各店舗に立入ることを禁止したものであることが認められ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。組合の役員が日常的に組合員に働きかけてその組織の拡大を図ることは組合の団結にとつて不可欠の行為であり、とりわけ組合が分裂し組合の存立自体が危殆にひんしているときは、組合役員のオルグ活動は緊急不可欠なものとして尊重されねばならない。また、上部団体の役員が下部組合の組織維持のためオルグ活動を行なうことは上部団体の団結権の内容そのものとして尊重されねばならず、また当該組合がその組織維持のため他労組員の支援を仰ぐこと自体その組合の団結権ないし団結自治の問題として同様尊重されねばならない。もつとも、オルグ活動に際して企業施設を破壊したり就労中の従業員に働きかけることによつて職場の規律を乱し、業務を妨害するようなことは緊急な事態等特別の事情のないかぎり許されないのであつて、その限度で組合員のオルグ活動が制限されることは当然である。しかし、その制限は右不当なオルグ活動を抑制する限度にとどめるべきであつて、みだりにこれを拡張してはならない。本件張紙は、前述のとおり、従組支援の他労組員の組合活動のための入店を無制限にかつ全店にわたつて一律に禁止したものであつて、たとえ被告主張のような張紙の動機となるような事実があつたとしても、その禁止は必要な限度を越えた不当な制限といわねばならない。しかも後記認定のとおり、本件張紙のなされた直前である昭和三六年一〇月二七日には被告の支配介入によつて従組が分裂し第二組合が結成され、本件張紙当時職制を中心とした従組に対する激しい切崩しが行なわれていたことを合わせ考えるならば、本件張紙は従組の分裂崩壊を意図してなされた支配介入そのものと解さねばならない。そうだとすれば、従組員の行なつた張紙の趣旨に反する行為はもちろん張紙自体に対する抗議活動も、その手段において相当性の限度を越えないかぎり、自救行為ないし正当な組合活動として許されるものといわねばならない。また、組合にとつて集会は情宣、オルグ、団結意思形成のための討議の場として不可欠のものであり、企業別組合にとつて集会のため企業内施設を利用せざるを得ないことは自明のことである。したがつて、たとえ争議中であつても、使用者は組合から集会の場所として企業施設の利用の申出でを受けたときは業務の必要、施設の保安等正当な理由のないかぎり、これを拒否または制限することはできないのである。ことに組合の集会に誰を参加させるか、何を議題にするかは組合自治の領域内の問題であつて、使用者がこれに介入することは団結権の侵害そのものとして許されない。しかも、被告と従組との労働協約第一八条および第五一条は、被告は、従組に対し、争議中といえども銀行施設の利用を包括的に容認しているのであり、かつ原告諸岡繁本人尋問の結果によれば、従来、被告が従組の銀行施設の使用の申出でに対してこれを拒否したことがなかつたことが認められ、これに反する証拠がないのであるから、被告が全店にわたつて一律に従組の店舗施設の利用を制限したことは、前記張紙同様、被告の従組に対する組合活動を弾圧する意図に出たものと認めざるを得ないのであり、施設管理権の濫用ないし支配介入の不当労働行為として非難されねばならない。したがつて、被告の業務ないし保安上の必要等その制限を正当化する具体的事実の認められないかぎり、従組の行なつた集会等が被告の制限に反したとしても、これを理由に従組員が問責される余地はなく、またその不当な制限に抗議することもその手段において行き過ぎのないかぎり、これを違法として非難することはできないのである。

また組合の役員が、組合員の行なつた行為について、具体的にかかわりがなくても、当然に責任を負わねばならないとする合理性のないことは既に述べたとおりである。そして、被告が違法行為の内容としてあげている事実について、被告主張の原告らのうち、後記認定の原告ら以外の者が具体的にこれに関与したことを認めるべき証拠はないので、その原告らについては、もはや被告主張の事実の具体的当否について判断するまでもなく、これを懲戒事由とすることはできないのである。

なお、成立に争いのない乙第一九号証によるも、その記載自体何ら違法といえないから、これを理由とする懲戒は許されない。

(4) 労働協約違反の争議行為について。

労働協約第四五、四六条に被告主張のような規定があること、目的の点はしばらくおき、従組が被告主張のような争議行為を行なつたことはいずれも当事者間に争いがない。そうして、右規定は労使双方が問題を経営協議会に付議して平和的に解決すること、そのために三週間の冷却期間を置き抜打ち的争議行為を行なわないことを定めたものであつて、いわゆる平和条項に該当するものであるが、これは争議行為そのものを放棄したものではなく、しかも右条項を遵守すべき義務の主体は協約の当事者である従組自身である。したがつて、右条項に違反する争議行為それ自体についてはいまだ民事上の免責を失うものではなく、右条項を遵守しなかつたことによる損害についてのみ協約の当事者である従組自身が賠償責任を負うのであつて、個別的労使関係においてその遵守が期待される企業秩序ないしは服務規律違反の問題を生じないのである。したがつて、右条項違反の争議行為を理由に個々の労働者を懲戒処分に付することはできないのである。そうだとすれば、たとえ原告らが被告主張の争議行為に関与したとしても、これを理由に右原告らを懲戒処分に付することは許されない。

(5) 委員長不当声明等について。

従組が、中央闘争委員会の決定に基づいて、従組中央執行委員長原告菅原昭三の名で「敵の弱点をつき統一して闘かおう」という標題のもとに被告主張の内容を含む声明文を従組機関紙に掲載し、その機関紙を従組員および従組支援の地銀連傘下の各単組に配布したこと、および被告主張の記載のあるステツカーが中新田町に張られたことはいずれも当事者間に争いがない。

成立に争いのない甲第一八一号証(同じく成立に争いのない乙第二三号証は同甲号証の記載内容の一部と同一)によれば、右声明文は四頁にわたる機関紙の一頁一〇段のうち上四段の左約半分の紙面に掲載されたものであり、その記載内容は、従組中央執行委員長が従組員に対し、本件処分を含む当時の従組員一六名に対する被告の処分提案の真の意図が従組の組織破壊にあり、その処分理由が合理性を欠くこと、その処分を強行させないため、従組員の団結、第二組合員、地域および産業別労働者との共闘の必要なことおよび被告の経営者に直接打撃を与える戦術を考えねばならないこと、そのため大企業には優先融資と低金利、地元中小企業には締め出しと高金利などの事実を暴露して統一して預金をさせない、減らしていく活動、被告銀行の信用を失墜させる行動をする必要のあることを訴えたものである。そして右声明文のうち、被告の営業にかかわる具体的事実は「大企業には優先融資と低金利、地元中小企業には締め出しと高金利」ということのみである。そして、証人真壁秀二および同佐藤智義雄の各証言を総合すれば、当時、被告銀行の行なう融資のうち、件数にして二パーセント、金額にして四〇パーセントが大企業に対して融資され、その金利は日歩一銭八厘ないし九厘であつたのに対し、中小企業に対する融資の金利は日歩二銭四厘ないし五厘であつたことが認められ、右認定に反する証拠はない。したがつて、多少の誇張はあるにしても「大企業には優先融資と低金利、地元中小企業には締め出しと高金利」ということはほぼ真実といわねばならない。しかも大企業に対する融資額が一件当り多額であることから比較的融資も行なわれやすく、薄利多売という素朴な経済原則に照らしても金利を低くすることは容易に想像しうることであつて、そのことの故に被告の名誉や信用を害するものとは到底考えられない。しかも、他に被告の名誉や信用を害するような具体的事実の記載を欠くのであるから、右声明文が被告の名誉や信用を害するものとは認められない。しかも前記のとおり従組が昭和三六年一〇月二七日被告に対する組織防衛のスト権を確立し、右声明文を掲載したころは、いまだその争議状態が終了していなかつたのであり、このような争議状態にあつたことを前提として右声明文を読めば、それが従組の被告に対する対抗手段としての争議戦術を訴えたものであることは明白である。そして、争議行為として、労働者が、自己の使用者との取引の中止を申し合せることはもちろん、一般第三者に対して使用者との取引中止を訴えること(いわゆるレイバー・ボイコツト)は虚偽の事実を宣伝するとか、暴力的手段を用いる等取引の自由を侵害する態様のものでないかぎり、正当な行為として許されるのである。以上の次第で右声明文は、中央執行委員長が、従組員に対しこのような争議戦術として許されるボイコツトの必要性を訴えたものにすぎないから、これをもつて違法とする理由は全くない。そして、従組の機関紙を一般に配布することは前述のとおり労働組合として当然許された宣伝活動であつて、これを違法なものとして非難することはできないのである。

また、本件全証拠によるも右原告らが、被告主張のステツカーの貼布について具体的に関与したことを認めるに足りる証拠はないので、個々のステツカーの記載内容の当否を判断するまでもなく、これを理由とする右原告らの懲戒処分は失当である。

(三)  別紙第三の第一の二について。

(1) (原告菅原)前記(二)の(5)で述べたとおり、懲戒事由に該当しない。

(2) (原告佐々木)同2の(一)については前記(二)の(2)、同(二)のうち、ストライキに参加すること自体は前記(二)の(4)で述べたとおり懲戒事由に該当せず、その余の行為が懲戒事由に当るものと認めるに足りる証拠はない。

(3) (原告沼波)前記(二)の(4)と同じ。

(4) (原告鈴木)

ア、(一)について。

当事者間に争いのない事実と成立に争いのない甲第二〇四号証、同第二七六号証、原告五十嵐幸雅本人尋問の結果によつて真正に成立したものと認められる甲第一四〇号証、証人大場三郎の証言(後記信用しない部分を除く)、原告五十嵐幸雅本人尋問の結果とを総合すれば、従組亘理支部と亘理、名取地区労との地域共闘会議が岩沼支店長に対し張紙と不当労働行為について抗議することを決定し、従組白石支部書記長原告五十嵐、地区労副議長訴外大友喜代治ら地区労組員十数名および従組本部から支援のため派遣された原告鈴木が、昭和三六年一一月一八日午前一〇時二〇分頃、岩沼支店を訪問し、支店長が留守であつたため、まず右大友が、同支店調査役次長訴外大場三郎に対し預金通帳を示しながら張紙をはがすよう要求し、同人との間で二、三言葉のやりとりをし、同調査役次長が地区労組員との応待を嫌つて隣接の社宅に引きこもつたため、支店長の帰店を待ち、午前一一時過ぎ頃、同支店長が帰店したので右原告らおよび地区労代表の労組員数名が、支店長らに面会し張紙撤去と不当労働行為をしないよう要請して交渉を行なつた後午後零時一〇分頃同支店を全員退去したが、右交渉は特別けんそうにわたるものでなかつたことが認められ、右認定に反する証人大場三郎の証言の一部は前掲各証拠に照らして信用できない。右交渉が張紙撤去と不当労働行為の中止を要請するものであり、ことさら業務妨害を目的としたものではなく、しかも交渉の経過も甚だしくけんそうにわたるものでなかつたことは前記認定のとおりであり、他に同日の交渉が職場の秩序を乱し、業務を妨害したと認めるに足りる証拠はない。そうだとすれば、右原告らが行なつた抗議交渉は目的ならびに手段において正当な組合活動といわねばならず、したがつてこれを懲戒事由とする被告の主張は理由がない。

イ、(二)について。

被告主張のストライキに関与したこと自体は前記(二)の(4)で述べたとおり懲戒事由に該当しないのであり、その主張の労働歌の高唱の点については組合員が争議時に組合員双互の団結意識を昂揚するため、あるいは対外的に団結誇示ないし世論喚起等のため、労働歌の高唱等の集団的示威行動を行なうことは、それが常軌を逸したけんそうにわたらないかぎり、正当な組合活動として許されるのであつて本件全証拠によるも原告鈴木らについて組合活動として許される限度を越え異常にけんそうにわたる行為があつたことを認めるに足りる証拠はない。

ウ、(三)について。

前記(三)の(1)と同じ。

(5) (原告諸岡)

当事者間に争いのない事実といずれも成立に争いのない甲第二八六号証(ただし後記信用しない部分を除く)、乙第二五〇号証、証人菊池長三(ただし後記信用しない部分を除く)、同根本光悦の各証言および原告諸岡繁本人尋問の結果とを総合すれば、従組の仙台市内の三支部は、昭和三六年一一月一〇日南北各ブロツクの一支店に対し前記張紙に対する抗議活動を行なうことを共同で決定し、全日自労に共闘を申入れ、かつ従組本部に中央闘争委員一名の応援を要請し、その要請により原告諸岡が本部から派遣されたこと、同原告は、支部から指定されたとおり、翌一一日午前九時五〇分頃、宮町支店に行き既に到達していた全日自労の労組員の抗議交渉に先き立ち北支部派遣の責任者訴外加藤卓造と共に同支店横出入口から入店し、支店長に挨拶したうえ右加藤とともに張紙の撤去を求めて交渉したこと、他方、全日自労代表の労働者約一〇名は、午前一〇時頃右原告らの交渉が終了するのを待たないで、右原告らと交渉している支店長席まで入り張紙があつては全日自労の組合員が市から支給される生活扶助料を受け取ることもできない等と言つて張紙の撤去を求め、午前一二時近くまで支店長と交渉したこと、その交渉は同支店の一職員が交渉の様子を写真に撮影したときおよび支店側が同日朝私服警官を張り込ませたのではないかと抗議したときのほかはさ程けんそうにわたるものではなかつたこと、そして、全日自労の労働者が入店してからは、交渉の主体は全日自労に移り原告諸岡らは支店長に対し仲介的補助的発言をする程度にとどまつたこと、同原告は午前一一時頃中央執行委員長原告吉田からの連絡により全日自労の労働者を残して一人退席したこと、同支店長は原告諸岡らの申出でに対し話し合いに応じ、その後全日自労の労働者に対しても当初話し合いを希望しない様子を見せながら、退去を求めるようなこともなく最後まで交渉に応じ、右交渉がいまだ強制にわたるようなものではなかつたこと、以上の事実が認められ、右認定に反する前記甲第二八六号証の一部および証人菊池長三の証言の一部および同証言によつて真正に成立したものと認められる乙第二四三号証の三の記載の一部は前掲各証拠に照らして信用できない。

右交渉は不当な張紙の撤去を求めてなされたものであるから、その目的自体は前同様非難すべきものではない。また抗議交渉において多少強い言葉が使われることは容易に想像しうるところであるから、同支店の職員が写真をとつたことに抗議したり、警官を待期させたのではないかと抗議する際強い言葉を使つたからといつて直ちに違法となるものではなく、前記認定事実からすれば右交渉が全体として通常許される程度を越えたものと認めることはできない。また、たとえ支店長が原告諸岡や全日自労の労働者との応待によつて勤務時間中二時間前後にわたつて仕事を中断したとしても支店長自ら右交渉に任意応じたのであるから、それが違法に業務を妨害したものとはいえず、他に右原告らの抗議交渉が職場秩序違反ないし業務妨害に該当するものと認めるべき証拠はない。

そうだとすれば、右原告の行為はいまだ正当な組合活動であつて懲戒事由に該当しないものといわねばならない。

(6) (原告我妻)

ア、(一)について。

(a) 丸森支店関係について。

当事者間に争いのない事実と前記甲第二七六号証(ただし後期信用しない部分を除く)証人今野常治の証言、原告山田研二(ただし後記信用しない部分を除く)および同我妻長三郎各本人尋問の結果とを総合すれば、従組白石支部長であつた原告山田研二、同白石支部に常駐オルグとして本部から派遣されていた原告我妻および従組員二名は、丸森支店従業員訴外目黒とみ子の母が同支店従業員訴外斉藤英一の母に従組幹部はアカだ、斉藤が従組にいることはよくないといつたことを聞き、それが同支店の職制らの指示によるものと考えてこれに抗議し、あわせて張紙撤去を求めて右職制と交渉するため、昭和三六年一一月一七日午前一一時過ぎごろ、地銀連派遣の他労組員のオルグ二名を伴ない、丸森支店に行つたこと、他労組員二名は同支店調査役次長に制止されて客溜りに残り、原告我妻ら従組員のみが、右調査役次長の招きで応接室に入り、同次長に対し、約二〇分余り張紙を撤去するよう、従組員を区別しないよう、前記目黒とみ子の母が同斉藤英一の母に従組幹部はアカだ、斉藤が従組にいるのはよくない等と言つたことは間違いない、目黒を使つて右不当労働行為をしないよう、目黒に謝まらせてくれ等と交渉し、さらに同次長が制止するのに勤務中の右目黒とみ子のもとに行き、右原告両名が謝まれ、反省しろ等と午後零時半頃まで同女の母の言動について抗議したこと、他労組員は右原告らが応接室に入ると間もなく同原告らのもとに来たがその後特別に発言することもなく右原告らの抗議の終るのを待つていたこと、以上の事実が認められ、右認定に反する甲第二七六号証の一部および原告山田研二本人尋問の結果の一部は前掲各証拠に照らして信用しない。右認定事実によれば他労組員が入店したことおよび調査役次長と交渉したこと自体はとりたてて非難する程のものではなく、ただ目黒とみ子に対し、その母の言動(それが同女や同支店の職制の指示によるものと認めるべき証拠はないのでこれを非難することはできない。)を理由に抗議したことは失当であり、しかも就労中長時間にわたるものであるからオルグ活動の相当性の限度を越えたものといわねばならず、したがつて、その限度で職場の秩序を乱すものとして非難されてもやむを得ない。

しかしながら、右原告らの行為はオルグ活動を目的としたものであつて、業務妨害そのものを目的としたものではなく、後記認定のとおり、被告による支配介入によつて従組が分裂させられ職制による切崩しが一般的に行なわれていたこと、および証人今野常治の証言によれば、同支店においても調査役次長ら職制による従組脱退の勧告が行なわれていたことが認められるのでこれらの事情を合わせ考えるならば、あながち右原告らの行動の行き過ぎのみを非難することはできない。

(b) 村田支店関係について。

当事者間に争いのない事実と前記甲第二七五号証、証人佐藤春治の証言の一部(後記信用しない部分を除く)、原告我妻長三郎本人尋問の結果とを総合すれば、原告我妻は、同月二一日午前一一時五〇分頃、地銀連派遣の他労組員オルグ二名と共にオルグ活動のため村田支店勤務の従組員訴外菅谷[学攵]を訪ねて同支店に行つたところ、支店長から他労組員の入店を拒否されたので、同人らは客溜りにとどまり同原告のみが支店長に面会し、十数分間張紙撤去を求めて平穏に交渉したのち、右菅谷と休憩室に入り数分間情報の交換をし、同人から同じく同支店の出納係で同原告の知人でもある訴外佐藤とみが同支店調査役次長や支店長代理から第二組合への加入の勧告を受けていることを知らされたので、同女を元気づけるため帰り際同女に挨拶をしようとして、同女の席に近づこうとしたところ、支店長代理が「何だ、そこへ何故行くのだ、出納係だから金がなくなつたら大変だ、行くな」と言つたので、同原告が「なぜ佐藤とみさんと話をしようとすることが悪いのだ、あんた達は不当労働行為をしているではないか」といつたことから、調査役次長さらに支店長も加わつて互に声高に口論となつたが、午後一時前頃他労組員と共に支店側の態度に抗議する言葉を残して同支店を退去したこと、以上の事実が認められ、右認定に反する証人佐藤春治の証言の一部は前掲各証拠に照して信用しない。そして右認定の事実によれば、支店長代理の発言さえなければ平穏に退去したことがうかがえるのであり、右支店長代理の発言は穏当でないので、口論がなされたとしてもそれを我妻のみの責任に帰することは相当ではなく、他に同原告の行為を非難すべき事実を認めるに足りる証拠はない。そうだとすれば同原告の行為はなお正当なオルグ活動の範囲内の行為として懲戒事由に該当しない。

イ、同(二)について。

前記(二)の(2)のビラについて述べたとおり懲戒事由に該当しない。

ウ、同(三)について。

前記(二)の(4)と同じ。

(7) (原告新田)

前記(二)の(3)で述べたとおり従組の分会会議に会場を貸すにあたつて他労組員の不参加を条件とすること自体許されないことであるから、これに違反したからといつて非難することはできない。その他同原告らの荒町支店における行動を非難すべき証拠はない。

(8) (原告山田純一)

前記原告佐々木について述べたと同じ。

(9) (原告佐藤)

前記(二)の(4)と同じ。

(四)  別紙第三の第二について。

(1) 原告五十嵐。

ア、同1について。

(a) ビラの作成配布について。

被告主張のビラの記載内容は、前記(二)の(2)で述べたとおり、それ自体違法とはいえないので、たとえ同原告が右ビラの作成配布に関与したとしてもこれを懲戒事由とすることはできない。

(b) 一一月一八日の岩沼支店関係について。

前記(三)の(4)のアで述べたとおり懲戒事由に該当しない。

(c) 同月六日の岩沼支店関係について。

当事者間に争いのない事実と前記甲第二七六号証、証人大場三郎の証言および原告五十嵐幸雅本人尋問の結果とを総合すれば、従組岩沼分会の従組員六名は、昭和三六年一一月六日正午より一せい休憩をとつて休憩室で食事中、午後零時一〇分頃、従組亘理支部闘争本部を訪問中立寄つた地銀連派遣の他労組員オルグ二名の訪問を受けて同人らと雑談していたところ、同支店調査役次長および同支店長から、張紙を理由に右他労組員の退去を求められたことから口論となり、電話で従組亘理支部書記長原告五十嵐に支援を求め、同原告が急拠、同支店にかけつけて分会員と共に、他労組員の退去を求める支店長らの態度に抗議したが、一せい休憩が終る同一時前頃には他労組員二名と共に同支店を退去したこと、以上の事実が認められる。そして、右口論の原因は同支店長らが張紙を理由に分会を訪ねた他労組員オルグの退去を求めたことによるものであり、その退去を求めること自体前記(二)の(2)で述べたとおり許されないことであるから、同原告らがこれに抗議したことは正当であり、その他同原告の同日の行動をもつて違法なものと認めるに足りる証拠はない。

イ、同2について。

(a) 検査妨害関係について。

当事者間に争いのない事実と証人武田甲二(ただし後記信用しない部分を除く)、同青田武雄の各証言および原告五十嵐幸雅本人尋問の結果とを総合すれば、亘埋支店では昭和三六年五月二三日午前から臨店検査が行なわれ、平素従業員の食堂兼休憩室として使用していた二階一〇畳の間と更衣室等として使用していた階下四畳半の二間が右検査業務に使用されたこと、原告五十嵐外三名の従組員は昼食時間が始つた午後零時三〇分過ぎ頃、二階休憩室に上り、折から昼食を済ませて再び検査を始めようとしていた検査役訴外泉正三郎にことわつて食事しながらマージヤンを始めたが、約十数分後これを発見した同支店調査役次長から制止され中止したこと、その際同原告は右調査役次長に休憩室で休むのは権利だ、我々を追い出すのか等と抗議し、その騒ぎでかけつけた同支店長がマージヤンだけはやめてくれと言つたのに対し同様抗議したこと、他の二名はその場で碁を始めたが同原告は間もなく階下に降りて外出したこと、以上の事実が認められ、右認定に反する証人武田甲二の証言の一部は前掲各証拠に照らし信用できない。証人武田甲二の証言中には同支店長が同日朝従業員に臨店検査のため昼食は隣接の社宅でとるように指示した旨の供述があるが、それは証人青田武雄の証言および原告五十嵐幸雅本人尋問の結果に照らしていまだ信用することができず、かりにそのような指示があつたとしてもそれは必ずしも全従業員に徹底していなかつたことがうかがえるので、右原告らが昼食時間中二階の休憩室を使用したことをもつて支店長の命令に違反したものとはいえない。また、昼食時間中平素食堂兼休憩室として使用していた部屋とはいえ検査業務が行なわれているところでマージヤンをすることは決して望ましいことではないが、マージヤンを始めるに当つて検査役にことわり、調査役次長が制止するまでは特別苦情も出ず、しかも同人の制止によつてマージヤン自体は直ちに止めたのであるから、マージヤンを行なつたことによつて業務妨害があつたということはできない。そして、従組亘理支部書記長である右原告が臨店検査の場合といえども昼食時間中の休憩室の利用に関する組合員の利益を護るためその使用の制限に反対すること自体は組合役員として当然であるから、抗議それ自体を違法なものということはできず、また同原告の抗議が被告が主張する程長時間にわたることを認めるに足りる証拠はないので、その抗議手段自体いまだ違法ということはできない。その他原告の同日の行動について懲戒事由に該当する事実を認めるに足りる証拠はない。かえつて右事件後本件処分提案時まで一年有余の月日が経過し、証人青田武雄の証言および原告五十嵐幸雅本人尋問の結果によれば、その間右事実について被告から特別問題とされたことがなく、しかもマージヤンに参加した他の者については何らの処分が行なわれなかつたことが認められ、これらの事実を合わせ考えるならばマージヤン事件を処分事由としたこと自体従組亘理支部書記長である右原告に対する特別な嫌悪の情を推認することができる。

(b) 出納事故関係について。

当事者間に争いのない事実と、いずれも成立に争いのない乙第二四号証の三、第二六号証の一、二、証人武田甲二の証言および原告五十嵐幸雅本人尋問の結果とを総合すれば、評価の点を除き被告主張の事実を認めることができる。そして再鑑を怠つたことおよび一万円の不足金を生じたことは職場の規律に違反するものとして非難されてもやむを得ないが、顧客に電話したことは事故後損害防止への努力のあらわれとみるべきであるからこれを非難することは相当でなく、顛末書に関しても結局支店長の指示に従つたのであるからとりたててこれを非難すべきものとは考えられない。

そして、いずれも証人武田甲二の証言によつて真正に成立したものと認められる甲第一四一号証、乙第二五号証によれば、右事故は重過失によるものとして七月末日諸損支出(被告負担)として処理済みであることが推認され、右事故後本件処分提案まで一年以上が経過していることを合わせ考えれば、前同様本件事故を改めて処分理由としたこと自体右原告に対する不当労働行為意思を推認せしめるものといわねばならない。

(c) 九月二一日の暴言関係について。

証人武田甲二の証言には被告の主張にそう供述があるが、それは原告五十嵐幸雅本人尋問の結果に照らして信用することができず、他に被告の主張事実を認めるに足りる証拠はない。

(d) 九月二六日の暴言関係について。

証人武田甲二の証言中には被告の主張にそう供述があるが、それは証人青田武雄の証言および原告五十嵐幸雅本人尋問の結果に照らして信用することができず、かりに原告が被告主張のような言葉を言つたとしてもそれはその前後の事情からいまだ職場規律違反として非難することはできず、他に同原告の同日の言動を非難すべきものと認めるに足りる証拠はない。

(e) 職場協議会の申入れについて。

当事者間に争いのない事実と証人武田甲二の証言おび原告五十嵐幸雅本人尋問の結果(ただし後記信用しない部分を除く)とを総合すれば、右原告が同年一〇月一六日午前九時頃、支店長から検印を経た顧客の普通預金通帳数冊を受けとるやその場で同支店長に対し人員増加問題について就労時間中職場協議会を開いて欲しい旨申し出で、同支店長が今日は役席が二人休んでいるので応じられない旨答えたので、さらにほかの支店ではやつているのにできない筈はないと職場協議会の開催を重ねて要望したところ、支店長が通帳を客に渡してから話をしようといつたことから仕事どころであるかと言いながら近くの机の上に通帳を投げつけ、これを自席に持ち帰り、顧客に渡して数分後再び支店長席に来て職場協議会を開いて呉れと言つたのに仕事をしろといつたのは不当労働行為だと抗議したが、双方時間があつたら午後聞くということで互に了解したこと、以上の事実が認められ、右認定に反する原告五十嵐幸雅本人尋問の結果の一部は前掲各証拠に照らして信用しない。

そして、顧客を待たして職場協議会の開催を申し入れることは穏当ではなく、特に支店長からそれをたしなめられて通帳をその場に投ずること(ただしその態様は本件証拠上明らかでない。)は誠に短慮の極みであるけれども、従組の役員として、たとえ就業時間中とはいえ、支店長に職場協議会の開催を申し入れること自体は、それが直ちに応ずべき性質のものではなくても、違法ということはできず、また支店長に言葉を返えしながらも結局支店長の注意に従つて顧客に通帳を渡したのであるから、右原告の右程度の言動をもつてただちに職場規律違反として重大視することはできない。そして、原告五十嵐幸雅本人尋問の結果によれば、それまで同支店長が職場協議会の申し入れに心よく応じていなかつたことが認められるのであり、右原告が支店長の注意をもつて職場協議会の申し入れに対する拒否ととつてこれに抗議したことはやむを得なかつたものと推認しうるのであるから、右原告の同日の態度をもつて、職場規律違反として右原告の態度を非難することは相当でない。しかも、結局午後時間があつたら職場協議会を開催するということで双方了解ができたのであるから、その後数か月以上経過した時点でことさらこれを問題とする被告の態度こそ、前記支部役員としての右原告に対する異常な嫌悪の情をうかがうことができるのであつて、右処分事由に関する被告の主張は失当である。

(f) 賃金カツトに対する抗議について。

当事者間に争いのない事実と証人武田甲二の証言および原告五十嵐幸雅本人尋問の結果とを総合すれば、右原告は一一月一日から四日まで指名ストで就労しなかつたので、同月五日の賃金から賃金カツトを受けたこと、翌六日午前九時一〇分頃、他支店の従組員一名を伴なつて亘理支店に帰店し、支店長に対し、賃金カツトしたのはどろ棒だ、カツトの理由をいえ、第二組合員の職場放棄についてカツトしないのは不当だ等と賃金カツトに抗議したが同一〇時頃同支店長に来客があつたので、その場を立ち去つたことが認められる。

そして、右証言およびこれにより真正に成立したものと認められる乙第二五九号証の二には右原告が同支店長を脅迫したかの如き証拠があるが、双方同一支店に勤務する者同志であることおよび原告五十嵐幸雅本人尋問の結果に照らし、右各証拠はいささか誇張にすぎるものとして、にわかに信用できない。しかも同支店長は来客があるまで右原告との交渉に応じたのであるから、たとえ抗議が理由がないとしても、右原告と支店長との交渉を職場規律違反として非難することはできない。そして、不就労分について賃金カツトすることは当然であるから、右原告がカツト自体に抗議することは失当であるけれども、原告五十嵐本人尋問の結果によれば、賃金カツトの明細が明らかでなく、また従組分裂時職場放棄をして第二組合の結成に参加した労組員については賃金カツトが行なわれなかつたことが認められるので、右原告の行なつた抗議のうち、カツトの明細および不当差別に関する部分は抗議そのものとしても正当であるので、右原告の賃金カツトの抗議をすべて非難することはできない。他に同原告の同日の行動をもつて違法と認めるに足りる証拠はない。

(g) 出勤簿について。

当事者間に争いのない事実と証人武田甲二の証言および原告五十嵐幸雅本人尋問の結果(ただし後記信用しない部分を除く)とを総合すれば、被告主張の事実を認めることができ、右認定に反する同本人尋問の結果の一部は前掲各証拠に照らして信用できない。たとえ、勤務支店に出掛けても、就労しなければ欠勤となるべきものであるから、支店長が欠勤印を押したことは当然であり、右原告がこれに異議をさしはさむべき余地はなく、出勤簿を机上にたたきつけたことは強く非難されてもやむを得ないことである。

しかしながら、同原告本人尋問の結果によれば、同支店勤務の訴外渡部勉が同年一〇月二七日の従組分裂の日支店には全く出て来なかつたのに出勤簿上出勤扱いとなつていたこと、そして右原告は右渡部との対比において支店長に抗議したことが認められるので、その抗議は差別待遇に関するかぎり正当であるので同原告の右抗議のすべてを違法なものと非難することはできない。しかも同原告本人尋問の結果によれば、右抗議は本件処分提案までとりたてて問題とされなかつたことが認められ、このことは後記認定の不当労働行為の事実と共に被告の同原告に対する不当労働行為意思を推認せしめるものといわねばならない。

(2) 原告佐久間について。

ア、同1について。

いわゆる幹部責任論をとり得ないことは既に述べたとおりであるから、被告主張の行為を実行したものか、たとえ同原告が支部長をしていた従組南支部所属の組合員であつたとしても、右原告が当然に責任を負うべき理由はなく、同原告が被告主張の各行為について具体的に如何に関与したかについては本件全証拠によるもこれを認めることができないので被告主張の行為の具体的当否について判断するまでもなく、同原告はその行為について懲戒責任を負わないものといわねばならない。しかも一一月一一日の宮町支店、同月一五日の荒町支店関係の被告主張事実が懲戒事由に当らないことは既に述べたとおりである。

イ、同2について。

(a) 一一月二〇日の本店侵入関係について。

当事者間に争いのない事実といずれも成立に争いのない甲第二七六号証、第二八六号証、証人今野英雄(第三回)の証言とを総合すれば、原告佐久間ら従組員数名を含む従組を守る仙台地区共闘会議なる団体所属の組合員十数名が、前記張紙と従組分裂に関する被告の支配介入について頭取に抗議するため、同月二〇日午後二時半頃、本店西口から店内に入ろうとして右原告と他労組員一名がドアに手をかけようとしたところ、既に右原告らが来店することを予知して警備に当つていた訴外星公雄らがこれを制止してドアに施錠し入店を阻止し同時にドアの外で警備に当つていた訴外今野英雄外一名がドアを背にして立つたこと、その際前記ドアに近づいた他労組員の手が右今野の肩に触れて同人が前によろめいたこと、右原告は、右今野に対しこの人達は従組を守る仙台地区共闘会議のメンバーで頭取に会いたいということで連れて来たので中に入れて欲しいと言つたが、右今野らはこれに応じなかつたこと、そして入居を希望する右原告ら組合員とこれを阻止する右今野ら警備員との間で、入れろ、入れないと互に応酬したこと、そして右原告らは午後四時半頃入店をあきらめてその場を退去したこと、その間比較的平穏で暴力行為その他の違法行為は行なわれず、また広瀬通りに面した営業室入口および裏側の行員通用口は開かれており、西口を訪ねた来客も非組合員によつて他の入口に誘導され、営業にはとりたてて支障をきたさなかつたこと、以上の事実が認められる。右事実によれば、右原告らが頭取に会いに来たこと自体は、それがたとえ面会を求める人数が多数であるため実現が期待できないようなものであつても、これを非難すべき性質のものではなく、しかも被告側の制止によつて入店が阻止され、それ以上の行為はなかつたものであり(他労組員の手が前記今野の肩に触れたことも故意による暴行という程度のものではない)、被告の業務を妨害するようなこともなかつたのであるから(もつとも、前掲各証拠によれば、他労組員の一部が、午後三時過ぎ頃、西入口附近で「七十七ではこのような張紙をしてわれわれ入ろうとする者を入れませんよ。お客さんは入れないといつていますよ」と言つたことが認められるが、その前後の事情からいまだそれが被告の業務を妨害するような態様のものとは認められない)、右原告らの同日の行為をもつて違法視することはできず、他にそのような事実を認めるに足りる証拠はない。

(b) 同月二八日の鉄砲町支店関係について。

当事者間に争いのない事実といずれも成立に争いのない甲第二七三号証、乙第二四六号証、証人横山豊平(第二回)の証言(ただし後記信用しない部分を除く)とを総合すれば、原告佐久間ら従組員三名が同月二八日午後一時二五分頃安保廃棄仙台中央部地域共闘会議所属の他労組員二名と共に、鉄砲町支店に行き、同支店勤務の従組員一名と共に同支店応接室で、右原告らに応待した同支店長および調査役次長の両名に対し張紙を撤去するよう交渉し、午後二時半頃退去するに際し、右原告が従組分裂に関する被告の不当労働行為に抗議する旨の右共闘会議の抗議文を朗読したうえ同支店長にこれを交付したこと、しかし右面会ないし交渉が強制にわたるとかけんそうにわたるようなことはなかつたこと、以上の事実が認められ、右認定に反する証人横山豊平の証言(第二回)の一部は前掲各証拠に照らして信用できない。右認定事実によれば、右原告らの同支店における抗議交渉をもつて違法ということはできず、他に右原告らの同日の行動について違法と認めるに足りる証拠はない。

(c) 同月二九日の本店関係について。

当事者間に争いのない事実と証人佐々木護雄および同星公雄(ただし、後記信用しない部分を除く)の各証言とを総合すれば、右原告ら従組員三名は前記従組を守る仙台地区共闘会議所属の他労組員三名と共に、前同様、被告の不当労働行為と張紙について頭取に抗議する目的で、同月二九日午後二時頃、従組の本部にも通ずる本店裏側行員通用口から何人からも制止されることなく入店し、三階役員室前で秘書課長を通じて頭取への面会を求めるべく、たまたまその場に居合わせた厚生課長に対し、右原告が秘書課長に会いたい旨告げたところ、同課長は少々お待ち下さいといつたので、その場で返答を待つていたところ、人事課長ら非組合員二〇名位が出て来て同人らから、いきなり、帰れ、出て行けといわれ、頭取との面会を希望していた右原告らおよびあとから支援のためかけつけた他の従組員三名と右非組合員との間に多少声高い言葉のやりとりが行なわれたこと、しかし右原告らは午後三時過ぎ頃面会をあきらめてその場を立ち去つたこと、その間その場の平穏を害するような緊迫した状態はなかつたこと、以上の事実が認められ、右認定に反する証人星公雄の証言の一部は前掲各証拠に照らして信用しない。そして右事実によれば頭取に面会するため三階役員室前まで行つたことは、たとえ入口に前記張紙が張られていたとしても、いまだ違法ということはできず、非組合員らから退去を求められて直ちに退去しなかつたのは一応違法といえないこともないが、各店の張紙が被告本店の指示によるものであることは前記認定のとおりであり、また被告が従組の分裂に支配介入したことは後記認定のとおりであるから、これらの事情を合わせ考えるならば、右原告らおよびその支援の他労組員が頭取に直接抗議して反省を求めるべくその面会を強く希望したことは容易に推認しうるところであり、その気持の余り、被告側の退去要求にもかかわらず、しばらくその場にいたとしても、あながちこれを責めることができず、右原告らの被告側職員との交渉もそれ程けんそうにわたるものではなかつたのであるから、右原告らの前記認定の行為をもつてことさら懲戒責任を問う程の違法性はないものといわねばならず、他に同日の右原告らの行動をもつて違法と認めるに足りる証拠はない。

(三)  以上の次第で、原告我妻および同五十嵐以外の原告らについては懲戒事由が全く認められないので同原告らについてはそれだけで本件処分は無効といわねばならない。また一部懲戒事由が認められる原告我妻および同五十嵐についても、前記認定の懲戒事由のみではその重さの点でいまだ同原告らに対する本件処分を首肯しうるものとは考えられず、しかも前記附加認定した事実を合わせ考えるならば、同原告らが中央執行委員または支部書記長として組合活動に従事していたことから、被告はこれを嫌悪して右処分を行なつたものと推認することができ、さらに次に認定する不当労働行為の事実に照し、それが明白であるので、右原告らについても本件処分は無効であり、就業規則各条の該当性の検討を要しないのである。

2  不当労働行為の存否。

被告が普通銀行業務を目的とする株式会社であり、肩書地に本店をおき営業店として、本店営業部、東京、山形、盛岡、平、石巻、気仙沼等七十七か店四出張所を設け、昭和三七年一一月三〇日当時資本金六億円、預金高約八二一億円、貸出高約六一七億円、従業員一七八四名を有していたこと、原告らが従組に加入しそれぞれ別紙第一の三記載の役員たる地位にあつたこと、従組が全国地方銀行労働組合連合会および宮城県労働組合評議会に加盟し、もと被告銀行における唯一の労働組合であつて後記分裂の直前である昭和三六年一〇月二六日当時一七〇二名の従業員中一五三一名(その余は非組合員)を擁していたが、分裂後である昭和三八年七月当時一七〇名に減少したこと、従組が、昭和三六年一〇月一一日から一三日にかけて開催された第六三回組合大会において、政暴法反対のための争議権、ならびに同年六月以降被告との間で懸案となつていた事項のうち女子職員の転勤問題、身元保証制度および研修に関するいわゆる三要求のための争議権を各別に確立し、そのための諸活動が行なわれたこと、ついで一〇月二六日から二七日にかけて開催された臨時組合大会において、いずれも分裂活動をしたとの理由で従組員一名を除名、一名を権利停止処分に付し、不当労働行為排除と組織防衛のためのスト権が確立されたこと、同日従組が分裂して第二組合である訴外七十七銀行労働組合が結成されたことはいずれも当事者間に争いがない。

成立に争いのない乙第二八八号証、証人高橋宏(ただし後記信用しない部分を除く)および同佐藤守雄の各証言と弁論の全趣旨とを総合すれば、仙台市内の支店次長ら十数名が各支店長らの指示により、昭和三六年九月上旬仙台市内の一料亭に集められ、これに仙台市内の原町支店長および宮城野原出張所長とが加わり、その席上右支店長らが、従組の執行部には共産党員がおるから現執行部にまかしていたら今後度々ストライキを行なつて被告のためによくない、したがつて執行部の交替を実現し従組の体質の改善をはからねばならない旨の発言をした後、酒食の饗応がなされたこと、更に九月一七日被告の意を受けた仙台市内の当時の従組員である役職員らを中心とした六、七〇名が再び前記料亭に集められ、一部の支店長らの指示により、本店預金課次長の訴外佐々木竹蔵が座長となつて参集者に対し従組執行部の非難、アカ攻撃、従組内に共産党員が何名いるなど従組内部の状勢を話し、このまま放置しておけば、企業がうまくないと話しかけ、参集者に従組の改善とその活動方法とを協議させ、その結果仙台市内の営業店を本店および南北の三ブロツクに分け、それぞれ二名ないし三名の世話人を選出し、右世話人を中心として分派活動を行うことの協議が成立したこと、その後、右世話人の指示により、右会合に参加した役席らが穏密裡に一部従組員に働きかけ、世話人がつくつた執行部批判に対する同意書の署名を集めていたが、一〇月中頃からは第二組合の結成に備えて一用紙に書いた脱退届および加入届の双方に署名させたものを集めていたこと、そして前記従組員二名に対する処分が行なわれた直後である九月二七日午前九時から右役席ら従組に反対の従組員が集つて七十七労組を結成したこと、そしてその直後から更に役席である労組員が中心となつて従組員に対する従組脱退労組加入の運動が各支店にわたつてはげしく行なわれたこと、以上の事実が認められ、右認定に反する認人高橋宏の証言の一部および同高橋範夫の証言は前掲各証拠に照らして信用できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

前記当事者間に争いのない事実とこれまでに認定したすべての事実および弁論の全趣旨とを総合すれば、本件全処分は被告が従組を嫌悪し、その壊滅を意図して、原告らが従組の中枢的役員であることの故になしたものと認めることができ、したがつて本件処分は不当労働行為に該当して無効である。

3  労働協約違反。

以上認定の経過から、本件処分が無効であることは明らかであるが、原告らはさらに本件処分が被告と従組との間の労働協約上の同意約款に違反して無効であると主張するので、以下この点について検討する。

(一)  本件処分当時、被告と従組との間の労働協約に従組員の解雇および懲戒について原告ら主張の同意約款があつたこと、しかるに被告は従組の同意が得られないのに本件各処分を行なつたことは、いずれも当事者間に争いがない。

右労働協約には右約款の外第二一条に別紙第五記載のような協議約款がある。すなわち、同第二一条は就業規制の定めにもかかわらず賞罰等の規準を含む人事の基本方針を従組と協議して定める旨規定しているのである。そして、第三一条第四、六号はこれを経営協議会の協議事項として規定している。したがつて、労働協約第二二条ないし第二七条の同意約款を第二一条と対比して考えれば、右同意約款は解雇ないし賞罰に関する規律の設定に関する規定ではなく、被告が行なう個々の従組員に対する解雇ないし賞罰そのものに対する従組の同意を要求したものと解さねばならない。ところで、一般的にいえば、同意は行為者単独の行為によつて完全な効果を生ぜしめるのが相当でない場合に他人の関与によつてその不完全な効果を補充させようとするものであり、同意を欠く行為の有効無効については必ずしも一概にはいいえないのであるが、同意を要求した規定の趣旨に則つてその効力の有無を考えなければならない。そして、同意の対象たる行為が同意権者の利害に直接かかわりをもつ場合には、同意を要求する規定の趣旨は同意権者の利益の保護を目的としたものと考えることができるので、その同意は行為の有効要件と解すべきである。そして、従業員に対する賞罰はその従業員の利害に直接かかわりをもつのであり、また解雇は雇傭契約の終了という従業員にとつて最大の利害にかかわりをもつのであり、その賞罰ないし解雇が不適正に行なわれる場合には当該従業員の利害が不当に侵害されるおそれがあるのみならず、その従業員の所属する労働組合の利害にも重大な影響を及ぼすのである。特に企業別組合における役員に対する解雇がその組合の活動に重大な支障を与えることは容易に想像しうるところである。そこで、これら従業員の利益ないしその集約化された労働組合の利益を擁護するため、労働組合が使用者の行なう解雇ないし賞罰に関与してこれを規制することを保障したのが前記同意約款の趣旨と解すべきである。したがつて、右約款は、労働組合が使用者の人事権の行使に介入する意味では経営参加条項たる性質を有するけれども、前記約款の趣旨からしてその重点は労働者の利益擁護の点にあり、したがつて右約款に定める同意は労働者の解雇ないし賞罰に関する有効要件と解すべきである。そうだとすれば右同意約款は労働組合法第一六条により労働者の待遇に関する基準として、直接個別労使関係を強行的に規律し、右約款に違反する解雇ないし賞罰は効力を生じないものと解さねばならない。

したがつて、右同意約款所定の従組の同意を得なかつた本件処分は無効である。

(二)  被告は、従組が本件処分について同意を与えなかつたことをもつて信義則違反ないし同意権の濫用があつた旨主張するが、その主張は次の理由から採用できない。すなわち懲戒処分はすでに述べたとおり、企業の秩序維持のためこれに違反する労働者に対する制裁であり、他方同意約款は労働者の地位の確保ないし利益擁護のために設けられた規定であるから、懲戒に関する同意権の行使(不行使を含む)が労使間の信義則に違反し権利の濫用となるかどうかは懲戒ないし秩序維持の目的すなわち企業の営利性と同意約款の目的すなわち労働者の生存権的要請との調和のうえに客観的に判断されねばならない。したがつて規律違反の行為の重大性すなわちそれが企業の運営ひいてはその存立に影響を与えるか否か、懲戒処分の重さすなわちそれが労働者の生存に致命的打撃を与えるか否かが、とりわけ考慮すべき事項と考える。したがつて、その規律違反がさほど重大でなく、しかもその処分が非行と対比して加重と考えられる場合にはもはや組合の不同意が同意権の濫用ないし信義則違反となる余地はないものといわねばならない。ことに就業規則所定の懲戒規定は企業の秩序維持の目的から使用者によつて一方的に制定されるものであつて、必らずしも充分労働者の生存権の保障を配慮したものとはいえないのみでなく、同意約款自体就業規則の上位規範たる労働協約の定めであつて単なる就業規則遵守の保障規定ではないのであるから、就業規則所定の懲戒事由に該当する事実があるからといつて、そのことだけで直ちに組合の不同意が同意権の濫用となるものと考えるべきではない。そして、前記認定のとおり、大部分の原告らについては規律違反の事実が認められず、一部規律違反の事実が認められる原告らについても、その非行事実はまことにささいなものであつて、とうてい従組の不同意が信義則違反ないしは権利の濫用と認めることはできない。

なお、被告は本件処分に関する従組の同意を求めるため、就業規則ないし労働協約に基づいて誠意を尽した旨主張するが、就業規則ないし労働協約の定める手続を履行することは懲戒権者として当然の義務履行であり、たとえ他の手続が適法に行なわれたとしても、そのことの故に同意約款の要件をみたすものではなく、また不同意が濫用となるものでもない。しかも、被告は労働協約上懲戒に関する従組の同意を求める手続は経営協議会にかぎる旨主張するが、同意約款は協議約款と異なり経営協議会における協議を当然必要とするものではなく、同意権者の同意の意思表示があればその要件を充すものである。したがつて、被告が処分提案をして従組がこれに同意すれば同意約款は完全に履行したものといえるのである。もつとも従組の同意を得るためにはその前提として事案に対する従組の理解を必要とし、その理解を得るためには被告の説明を必要とするのであるから、被告が従組に対し経営協議会の開催を求めてその説明をすることは労働協約上許されている(協約第二八条、第三一条第六号、第三三条参照)のであるが、それはあくまで同意を求めるための一手段にすぎず、同意を得るための他の手段を禁ずべきものとは解されない。したがつて、同意が経営協議会においてなされねばならないとか同意を求めるためには必ず経営協議会を開催しなければならないものと解すべき合理性はなく、別紙第五記載の労働協約の全規定によるもそのように解さねばならない規定は存在しない。そうだからこそ、被告が自認するごとく、本件処分以前は賞罰審査委員会における従組代表委員の同意をもつて同意約款上の同意として処理されていたのである。したがつて、被告が本件処分問題について従組の団体交渉の申出でを拒否したことは正当とはいえない。そしてその余の主張はすべて同意権の濫用を基礎づける事実とは考えられない。

三、以上のとおり、本件処分は無効であるので、特段の事情のないかぎり、本件解雇処分を受けた原告らは民法第五三六条第二項により解雇期間中の賃金債権を失なわず、本件減給処分を受けた原告らは減給相当額の賃金債権を保有するのである。そこで、以下右賃金債権に関する各抗弁の当否について順次検討する。

1  専従の抗弁について。

(一)  被告主張の専従協定が少くとも昭和三八年五月二二日まで被告と従組との間で有効に存在したこと、原告吉田、同青木および同鈴木がもと専従者であつたことはいずれも当事者間に争いがない。

労働協約第一六条第一項によれば、被告は従組が組合員を組合業務に専従させることを認めると規定している。そして同条第二項の専従者の取扱いに関する定めをしたものが前記協定であり、別紙第六記載のとおり、人数、期間、身分保障等の事項についてそれぞれ協定がなされている。そして、労働協約第一六条および右協定は、被告の従業員たる身分を保有しながら組合業務に専従する者に関する被告と従組との間の取決めであるが、専従者となつた労働者に対する被告の待遇に関する取決めは、労働者の待遇に関する基準たる性質を有するので、規範的効力を有し、個別的労働関係を強行的に規律するものである。そして右労働協約第一六条および右協定によれば、専従者は、従組との間では、従組の選任(決定と委任)により、組合業務に専従する権利と義務を有し、被告から福利、厚生等の目的をもつて支払われるべき給与以外の給与相当額の金員の支払請求権を有するのであるが、他方被告との間では、従組からの届出により、一定の期間休職となり、その期間中労務提供の権利と義務および前記従組が負担すべき給与についてその請求権を失なうほか、被告の従業員たる地位が保障され、不利益な取り扱いを受けないのである。

ところで、被告は、前記原告らが訴状において専従者であることを自ら主張し、その後専従解除により専従者でなくなつた旨主張したこと(その事実は弁論の経過から明らかである。)をもつて自白の撤回にあたり専従者でなくなつた旨の主張は許されないと主張する。しかしながら、被告との間で専従者であるということは、前記のとおり一定の法律効果を伴なう法的地位と解すべきであつて、原告らがこれを認めることは権利自白の一種であつて、事実の存否を認める自白には当らないので、その主張に拘束力を認めることはできない。もつとも被告との間で専従者としての地位にたつためには、前記のとおり従組の選任と被告に対する届出を要するのであるから、専従者であることの主張は、少くとも、右原告らがもと従組によつて専従者に選任されその旨被告に対する届出がなされたことを認める趣旨と解しうるので、その限度で自白としての拘束力を認めうるけれども、そうだからといつて、専従者たる地位についたことを前提とする別箇の新な事実である専従者たる地位の終了原因事実の主張まで許さないものと解すべきではない。したがつてこの点に関する被告の主張は採用できない。

(二)  右原告らが、もと専従者であつたことは前記のとおり当事者間に争いがなく、被告がおそくとも昭和三七年三月二〇日従組から右原告らの専従解除の申出でを受けたことは当事者間に争いがない。そこで従組からなされた専従解除の申出でによつて右原告らの被告に対する専従者の地位が終了したか否かについて検討する。前記協定によれば、従組によつて専従者に選任された者の所属と氏名を、従組から被告に届け出ることによつて、被告に対する専従者たる地位が生ずるのであつて、その意味で右届出は形成的効力を有するものと解すべきである。すなわち、右協定によれば、専従期間は原則として一年と定められ、かつ専従期間中は当然休職となるのであるから、就業規則第一八条所定の一般休職の場合とは異なり、休職発令を要しないものと解すべきである。したがつて、専従期間の経過(専従期間が延長された場合には延長期間の経過)により、専従者たる地位は終了し、休職も当然終了すなわち復職となるものと解すべきであつて、休職解除の発令ないしは復職命令の発令を要しないものと解すべきである。そして、専従期間中の専従者たる地位の消滅に関しては右協定に何らの定めがないけれども、そもそも専従制度が労働組合の活動を保障するために認められたものであつて、使用者は団結権ないし団体行動権の承認の故にこれを受忍すべきものではあつても、従業員が使用者の業務に従事しないことは例外的なことであるので、専従の終了はこの例外から原則に復帰することを意味するにすぎないのであつて、使用者に対し何ら不利益を与えるものではない。しかも、前記のとおり専従者たる地位の発生が従組からの選任の届出のみによつて生ずることと対比すれば、専従の終了についても従組から専従解除の届出によつて形成的に生ずるものと解すべきである。したがつて、従来たとえ休職の発令ないし休職解除の発令が出されていたとしてもそれは法律上特別の意味をもつものではなく、専従すなわち休職開始ないし専従解除すなわち休職終了の各事実を確認する意味以上のものではないと解すべきである。そうだとすれば、右原告らについてかりに専従期間の延長があつたとしても、昭和三七年三月二〇日従組から被告に対し専従解除の届出がなされたのであるから、もはや右原告らは専従者ではなくなつたものといわねばならない。

かりに被告主張のように、休職解除の発令によつてはじめて専従解除ないし休職が終了するものと解しても、前記のとおり専従制度が組合活動の保障のために認められたものであつて専従者個人のためのものではないのであるから、組合の専従解除の申出でに対して使用者が理由もなく休職解除の発令をしなければ、その発令をしないこと自体が不当労働行為に該当して許されないのである。したがつて、このような場合には、休職解除の発令がなくても発令があつたと同様の効果を認めなければならない。しかるに、右原告らについて、被告が休職発令をしないこと(このことは当事者間に争いがない。)を肯首せしめうる何らの具体的事実の主張立証がないのであるから、休職解除の発令があつたと同様の効果を認めなければならない。そうだとすれば、従組の右解除の申出で以降、右原告らを専従者として扱うことはできないのである。

(三)  被告は、従組の前記専従解除の申出でが労使間の信義則に違反する旨主張するが、これを認めるに足りる具体的事実の主張立証はないので、右主張は採用できない。

また、被告は従組の右専従解除の申出ではその後撤回された旨主張し、従組が昭和三七年七月の大会で右原告らを含む全員の専従解除の決定をし、同月九日その旨被告に申し出たことは右原告らの自認するところであるが、弁論の全趣旨によれば、右原告らについて被告が専従者扱いを止めないので、大会で専従解除の確認をしてその旨被告に通告したことが認められるので、重ねて専従解除の申出でをしたからといつて、それが先の専従解除の申出でを撤回したものとはいえないのである。その他被告主張の撤回の事実を認めるに足りる証拠はない。

(四)  以上の次第で、右原告らはいずれも本件処分前、既に専従者でなくなつていたのであるから同原告らが専従者であることを前提とする被告の主張はすべて失当である。

2  時効の抗弁について。

原告ら主張の臨時手当が、二年の消滅時効にかかること、その臨時手当の支給日が被告主張の通りであること、したがつて被告主張の臨時手当についていずれも請求が拡張された昭和四四年四月二三日までに二年以上の期間が経過したこと、臨時手当の前提たる雇傭契約上の地位の確認の訴が提起されその継続中右請求の拡張がなされたことはいずれも当事者間に争いがない。

そこで雇傭契約上の地位の確認の訴の提起およびその訴訟の係属によつて右雇傭契約の存在を前提とする臨時手当債権の時効が中断するか否かについて検討する。

そもそも消滅時効の制度は法的安定または採証上の理由から権利不行使の事実が一定の期間継続することによつて権利消滅の効果を生ぜしめるものである。したがつてこの継続した事実状態と相容れない事実が生じかつその反対事実の発生が明確であるときは時効の効力を認める理由がなくなる。その場合には時効の進行は中絶されすでに経過した時効期間の効力が消滅する。これが時効の中断である。しかし、時効中断の効力が生ずるためには反対の事実があることだけでは足りず、その事実が明確に立証されなければならない。これを請求についてみれば、請求の結果権利の存在について公の確認が一定の形態で成立するに至ることを要するのであつて、単なる権利行使の事実があつただけではいまだ確定的に中断の効力を生じないのである。すなわち、催告は、債務者に対して履行を請求する債権者の意思の通知であるが、六カ月以内に所定の裁判上の時効中断方法をとらないかぎり、時効中断の効力を生じないのである(民法第一五三条)。しかし、催告後六カ月内に裁判上の時効中断方法がとられた場合には、たとえそれらの裁判上の時効中断方法が時効期間経過後になされたときでも、裁判上の保護を与え、判決または強制執行によつて債権の存在が確証されることによつて、時効中断の効果を確定的に与えようとするものである。このように催告が一応の中断事由となるのは、権利行使の意思を有する者に一応時効の進行を停止して、裁判上の保護の道を開こうとする趣旨によるものである。また裁判上の請求は、訴の却下または取下の場合には、時効中断の効力を生ぜず、判決によつて権利の存在が確認されて始めて中断の効力が生ずるのである(民法第一四九条)。したがつて、その権利が訴訟物として明確に主張されないかぎり、判決でその存在が確認されることはなく、またその権利について確定的に時効中断の効力を生じないのである。

そして、雇傭契約上の地位の確認の訴は、前述のとおり、労働給付の過程における具体的個別的権利関係をも包含する包括的法律関係の存在の確認を求めるものであるが、その包含する個別的具体的権利関係は多種多様であり、雇傭契約上の地位の確認の訴がこれら具体的個別的権利関係のすべてを直接訴訟物とするものではない。したがつて、雇傭契約関係から生ずる派生的個別的権利関係について確定的に時効を中断するためには、包括的な雇傭契約の地位の確認とは別に、特にその個別的権利関係を明確に訴訟物として主張し、判決によつてその存在が確認されなければならないのである。しかしながら、雇傭契約上の地位の確認の訴は、包括的ではあるが、その契約関係から生ずるすべての権利の主張ないしその履行を求める意思を含むものと解すべきであり、そのためにこそ包括的な雇傭契約上の地位の確認を求める利益があるのである。したがつて、雇傭契約上の地位の確認の訴の提起は、当然これに包括される個別的権利の催告を含むものと解すべきであり、とりわけ賃金は雇傭契約上生ずる重大な権利であり、しかも現今の賃金は毎月の給料の外臨時手当を含むのが一般であるから、雇傭契約の存在の主張は当然に臨時手当の請求を含むものと解さねばならない。しかも、本件臨時手当はすべて右雇傭契約上の地位の確認の訴が提起された後のものであつて、右訴を提起した当時は、被告と従組との間で所定の協議ができておらず具体的金額を特定し得なかつたのであるから、右原告らが臨時手当の請求をしない意思であつたとは考えられない。そして催告が裁判上なされたときは、それは、裁判外の催告より遙かに明確な権利主張と認められるから、時効中断事由としても裁判外の催告より強い効力を認めるべきである。そして訴訟における催告は、単なる裁判外の催告とは異なり、継続的であり、その訴訟の係属する期間中一体として観念することができるので、更により強力な中断事由たる手段をとるべき期間の六か月の起算点は、その訴訟係属が消滅した時、すなわちその訴訟における終局判決確定のときと解すべきである。

そして、本訴においては、当初雇傭契約上の地位の確認の訴が提起され、その係属中臨時手当債権を追加請求したのであるから、右臨時手当債権の時効は雇傭契約上の地位の確認の訴の提起によつて一応中断し、もはやその後に生じた臨時手当債権については雇傭契約上の地位の確認の訴が終結するまで時効は進行しないものと解さねばならない。

そうだとすれば、臨時手当債権の一部が時効により消滅したとする被告の主張は失当といわねばならない。

3  解雇期間中に得た収入の控除の抗弁について。

原告吉田、同青木、同沼波、同鈴木、同五十嵐がそれぞれ被告主張の期間、その主張の団体に勤務してその主張の金額の収入を得ていることは当事者間に争いがない。

被告は、解雇期間中他の職について利益を得た場合には、民法第五三六条第二項但書に基づいてその利益を使用者に償還すべき旨主張し、同旨の判例(最高裁判所昭和三六年(オ)第一九〇号、同三七年七月二〇日第二小法廷判決、民集一六巻八号一六五六頁)があるけれども、当裁判所は次の理由によつてこの見解を採用しない。

双務契約においては、債務者の責に帰すべからざる事由によつて履行不能が生じた場合には、債務者の債務は消滅し、その履行不能が債権者の責に帰すべからざる事由(不可抗力)によるときは債務者が受けるべき反対給付請求権も消滅するが、その履行不能が債権者の責に帰すべき事由によつて生じた場合には債権者を保護すべき理由がないので債務者は反対給付請求権を失なわないというのが民法第五三六条の法意である。したがつて債務者は債権者の責に帰すべき事由によつて履行不能が生じた場合には、自己の債務を免れるにもかかわらず、債権者に対する反対債権を失わないのである。その場合債務者が債務を免れたことによつて得た利益を債務者のもとに保有させることは公平の原則に反するので、その利益だけは債権者に償還させようというのが同条第二項但書の法意である。したがつて、同条但書を解釈するにあたつても、双務契約における交換理念に基づく危険負担の原則そのものを前提として実質的に考察しなければならない。そして、雇傭契約は労務に服することすなわち労働給付と報酬を与えることすなわち賃金の支払いとが対価関係に立つ双務契約であるから、双務契約における危険負担の原則の適用を受けるのである。したがつて、不当解雇その他使用者の帰責事由によつて労働者の労働給付が不能となつた場合には労働者の労働給付義務は消滅するが、それにもかかわらず、労働者の使用者に対する賃金債権は消滅しないのである。この場合には労働者は使用者に何ものも与えないのに全賃金を取得できるのである。すなわち、雇傭契約において賃金と対価関係にあつた労働は、使用者の責に帰すべき事由による履行不能によつて、雇傭契約による拘束から脱し、賃金の対価たる意義を失なうのである。したがつて、雇傭契約による拘束を脱した労働力を如何に処分するかは労働者の自由の範囲内のことであり、他の使用者のもとでこれを利用して対価を得たからといつてもとの使用者に対し不当に利得したことにはならないのである。

また、給付義務を免れた労働を他の使用者のもとで利用して得た対価は新に創造された価値であつて、もとの使用者に対する給付義務を免れた労働の変形物ではないから、これを給付を免れた労働の変形物ないし代償物としてもとの使用者に償還すべき合理的理由はない。

このような基本的理解のうえに立つて、民法第五三六条第二項但書をみれば、雇傭契約において債権者に償還すべき自己の債務を免れたことにより得た利益とは、労働給付義務を免れたために節約される運動費、作業服の調達費等本来なすべきであつた給付をしないでもよいことになつたため直接生じた利益をいうのであつて、債務の免脱を利用したのではあるが別個の原因によつて生じたいわゆる中間収入はこれに含まれないものと解さねばならない。前記判例は中間収入の償還義務を認める根拠として、労働者の労働義務の存在をあげるが、解雇その他使用者の帰責事由による労働者の労働給付が不能となつた場合にまで労働給付義務が存在するということは前記危険負担の原則に抵触して許されないので、労働義務の存在を前提とする右判例に従うことはできないのである。

また一説には、労働基準法第二六条をもつて中間収入の控除を認めた規定であるとする見解があるが、労働基準法はもつぱら労働者の保護を目的とする法律であり、同法第二六条は、使用者の帰責事由による労働者の就労不能の場合の生活扶助という社会的考慮に基づいて、賃金債権の有無とは関係なく、補償的給付としての特殊な休業手当請求権を保障したものと解すべきであつて、民法第五三六条第二項但書との関係で制定されたものと考える余地はないので、労働基準法第二六条を根拠として中間収入の控除を認める見解は採用できない。

以上の次第で、労働者が解雇期間中得た中間収入を償還ないし控除すべき法律上の根拠は存在しないので、この点に関する被告の主張は、その余の点について判断するまでもなく理由がないので失当といわねばならない。

四、そして被告銀行における毎月の賃金の支払日が五日であり、本件解雇処分に付された原告らの処分当時の賃金月額および基準給与額が別紙第一の一記載のとおりであり、被告が右原告ら主張の臨時手当を支給し、本件処分後の臨時手当支給率が別紙第一の四記載のとおりであり、右原告らが本件処分後である昭和三七年一〇月以降同四四年四月までに支給されるべき賃金合計額および臨時手当合計額ならびにその総合計額が別紙第一の一記載のとおりであること、また本件減給処分に付された原告らが昭和三七年一〇月の賃金から控除された減給額が別紙第一の二記載のとおりであることはいずれも当事者間に争いがない。

五、よつて、解雇処分を受けた原告らの、被告との間でそれぞれ雇傭契約上の地位にあることの確認を求める各請求および被告に対し別紙第一の一の「昭和三七年一〇月以降同四四年四月までの賃金および臨時手当総合計金額」欄記載の各賃金と臨時手当、同年五月以降毎月五日かぎり同「解雇当時の賃金月額」欄記載の各賃金の支払いを求める各請求、ならびに減給処分を受けた原告らの被告に対する別紙第一の二の「減給額」欄記載の各減給賃金とその支払期日の翌日である昭和三七年一〇月六日以降完済まで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める各請求はいずれも正当であるのでこれを認容し、その余の訴はこれを却下することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言について同法第一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 石井義彦 若林昌俊 小川克介)

別紙 第一

一、二、債権目録〈省略〉

三、処分内容および原告らの従組における地位

原告氏名

処分内容

昭和三六年一〇月から同三七年七月七日までの組合における地位

翌八日以降の組合における地位

1

吉田敬治郎

懲戒解雇

中央執行委員長

中央執行副委員長

2

菅原昭三

右に同じ

同副委員長

中央執行委員長

3

佐々木栄市

右に同じ

同副委員長

中央執行委員

4

青木卯三郎

右に同じ

書記長

右に同じ

5

沼波彊二

右に同じ

中央執行委員

(組織部長渉外担当)

右に同じ

6

鈴木楫吉

右に同じ

右に同じ

(教宣部長教宣担当)

右に同じ

7

五十嵐幸雅

右に同じ

亘理支部長

(分裂当時は支部書記長)

亘理支部長

8

諸岡繁

減給一ヶ月昇給停止二年

中央執行委員

中央執行副委員長

9

我妻長三郎

右に同じ

右に同じ

中央執行委員

10

新田恒夫

減給一ヶ月昇給停止一年

右に同じ

書記長

11

山田純一

右に同じ

右に同じ

中央執行委員

12

佐藤敬

右に同じ

右に同じ

右に同じ

13

佐久間正喜

減給一ケ年昇給停止一年

降格

仙台南部長

仙台南部長

14

山田研二

譴責

昇給停止一年

白石支部長

組合員

15

山田破魔雄

右に同じ

盛岡支部長

右に同じ

四、臨時給与支給率表〈省略〉

別紙 第二

就業規則(抄)

第四条 従業員の任免、異動は頭取が行う

第一八条 従業員が左の各号の一に該当するときは期間を定めて休職を命ずることがある

一、業務外の傷病による欠勤が引続き左の区分に及んだとき

区分      期間

勤続三年未満の者  六ケ月

勤続五年未満の者  八ケ月

勤続一〇年未満の者 一〇ケ月

勤続一五年未満の者 一ケ年

勤続一五年以上の者 一年三ケ月

二、家事の都合その他の事由で欠勤が引続き二ケ月に及び勤務に堪えられないと認められたとき

三、当行の都合によつて当行以外の職務に従事するとき

四、前各号の外これに準ずる理由があるとき

但し第二号、第三号、第四号によつて休職を命ずるときは予め組合の同意を得て行う

第五九条 従業員が左の各号の一に該当するときは懲戒に付する

一、正当の理由なしに屡々無断で欠勤、遅刻または早退したとき

二、職務上の指示命令を不当に拒み屡々規則に違反したとき

三、職務の秩序と風紀をみだしたとき

四、職務怠慢または監督不行届によつて事故災害等を発生させたとき

五、故意または重大な過失によつて当行に損害を与えたとき

六、不正行為によつて従業員としての体面を汚し当行の信用を傷つけたとき

七、業務上の重大な秘密を外部にもらしたとき

八、重要な経歴を詐りまたは不正な方法を用いて採用されたとき

九、当行の承認を受けないで在籍のまま他に雇入れられたとき

一〇、その他前各号に準ずる行為のあつたとき

第六一条 表彰、懲戒は賞罰審査委員会の議を経て行う

賞罰審査委員会に関する規定は別に定める

別紙 第三

第一、原告吉田、同菅原、同佐々木、同青木、同沼波、同鈴木、同諸岡、同我妻、同新田、同山田純一および同佐藤の処分理由。

一、従組の行なつた違法不当な行為について、従組の中央執行委員として、その企画、決定、指令および指導に参与したこと。

右原告らは、いずれも、従組中央執行委員として、従組の業務の運営に当つていた者であるが、左記違法不当な行為について、その企画、決定、指令および指導に参与し、もつて、被告銀行の職場の秩序を乱し、業務を著るしく妨害し、信用を毀損し、損害を与えた。

1 政暴法反対闘争。

(一) 従組は、昭和三六年一〇月一一日から一三日にかけて開催された第六三回組合大会において、当時国会に上提審議されていた政治的暴力行為防止法案(以下政暴法という)の成立に反対するため、賛成九九、反対一五、保留六の割合で、争議権を確立し、その旨被告に通告した同月一七日から解除通告のあつた翌三七年七月九日まで次のような争議行為を行なつた。

(1) 署名、チラシ配布、ステツカー張りのための職場放棄。

後記中闘発第一、五号、中闘指令第六、八号に基づき、次のような職場放棄を行なわせた。

ア、仙台市内の従組員一二名は昭和三六年一〇月一七日および一八日街頭署名等のため上司の許可がないのに職場を離脱した。すなわち、南町通支店勤務の従組員一名は一八日午後一時一〇分頃から同三時三〇分頃まで、本店勤務の従組員一名は同日午後四時から同五時まで、いずれも上司の許可がないのに職場を離脱した。

イ、佐沼、築館支店勤務の従組員は同月二五日および二六日署名運動等のため上司の許可がないのに職場を離脱した。すなわち、佐沼支店勤務の従組員三名は同日頃の午後二時頃無断外出して署名活動を行なつた。

ウ、気仙沼支店勤務の従組員二名は、同月二五日午前八時四五分頃から同九時三〇分まで、翌二六日は終日、職場を離脱して署名活動に従事した。もつとも、右両名は、二五日、翌二六日の活動のため年次有給休暇の請求をしたが、支店長は勤務時間中の政治活動は認められないとの理由で右請求を拒否した。

(2) 自転車、バイク行進のための職場放棄。

後記中闘発第六号に基づいて、仙台市内三支部所属の従組員合計一五名を、同月一九日午後零時半から行なわれた安保県民会議主催の行進に参加させるため勤務時間中職場を離脱させた。すなわち、本店、長町支店、南町通支店および名掛丁支店勤務の従組員各一名は、同日正午頃ないし午後四時半頃の間行進に参加するため職場を離脱した。もつとも、右行進に参加した一五名のうち、鉄砲町支店勤務の従組員一名は家事の都合を理由に職場離脱の申出でをしたので、支店長はこれを許可したが、右は詐欺によるものであるから許可としての効力を生じない。

(3) 時間外、休日勤務拒否。

同月二五日から二九日までは後記中闘指令第五号に基づき、一〇月三〇日以降一二月三〇日までは後記権限委譲に基づく支部闘争委員長の指示により、延べ、四〇九課店、二、八一五名が協定の締結を拒否して時間外、休日勤務を拒否させた。

(4) 宿日直拒否。

一〇月二六日から二九日までは後記中闘指令第七号に基づき、同三〇日から昭和三六年一二月末日までは後記権限委譲による支部闘争委員長の指示により、宿日直が行なわれていた、本店、平、石巻等一〇か店でこれを拒否させた。

(5) リボン着用。

後記中闘指令第六号に基づき、全従業員が、一〇月二六日以降、巾二センチメートル、長さ一〇センチメートル位の黄色の布地に「政暴法粉砕」と黒書したリボンを勤務時間中営業店内で胸に着用させた。一一月になつて着用を止めた者もあるが、一二月頃まで着用していた者もある。

(6) 一せいランチ。

後記権限委譲に基づく支部闘争委員長の指令により、一〇月末日以降、正午から午後一時まで一せいに休憩をとらせた。

(7) 指名スト。

一〇月二七日以降二九日までは中闘指令に基づき、その後は後記支部委員長に委譲された権限に基づき、次のような指名ストを行なわせた。

ア、内脇支店において、従組員四名が、一一月一三日、一五日、一七日、指名ストライキを行なつた。

イ、岩沼支店において、従組員四名が同月一三日午後一時から五時まで、従組員三名が同月一八日(一名は午前八時四五分から午後二時まで、二名は午前一〇時から午後二時まで)、従組員三名が同月二一日午前一〇時五〇分頃から同一一時三〇分頃までと同月三〇日午前一〇時から午後五時まで指名ストライキを行なつた。

ウ、中田支店において、従組員二名が一一月二〇日以降月末まで指名ストライキを行なつた。

エ、その外全支部において、延べ一、六七六名の従組員が一〇月二七日以降翌三七年三月まで指名ストライキを行なつた。

(二) 政暴法反対の争議行為は、その目的が本来労使間の交渉事項に該当しないものであるので、憲法第二八条の保障する争議権の範囲を逸脱した違法な行為であり、被告がこれに関与した労働者を懲戒規定に照して処分するのは当然である。

(三) そして、従組の行なつた前記争議行為は、以下述べるとおり、すべて、中央執行委員であつた頭記原告らの企画、決定、指令および指導によつたものである。すなわち、

従組の大会の決定を要する事項は、規約上次のような手続を経て行なわれることになつている。すなわち、中央執行委員会においてまず原案を作成し、これを中央委員会に付議し、その決定を得た後本部提出の議案として下部討議に付し、支部、分会の討議を経た後支部執行委員会の議を経て支部大会に付議する。支部大会は支部従組員および支部役員からなる構成員の三分の二以上の者が出席して開催せられ、出席組合員の過半数の議決によつて支部の結論が出される。そして、本部大会は従組員一〇名に一名の割合で各支部から選出された大会代議員および本部役員からなる構成員の三分の二以上の出席のもとに開催せられ、出席代議員の過半数の議決によつて議案の可決を決する。なお従組規約第四九条によれば、その際「代議員は支部組合員を代表し、所属組合員の意思を公正に反映しなければならない」こととされている。

政暴法反対の争議権は以上の手続に従つて可決された(ただし、後述のとおり、右規約四九条には違反)のであるが、これは、すべて、中央執行委員であつた右原告らの扇動によるものである。右原告ら中執は、昭和三六年五月二九日、第一〇八回中央委員会を開催し、政暴法反対の闘争方針と具体的闘争方法を決定し、これを組合日報や機関紙「七十七」紙上に掲載して従組員に徹底し、その後も組合日報等により一層強力な教宣活勤を行なつて、争議権確立へと下部従組員をかり立てた。ことに、組合員数の半分を擁する仙台市内三支部および山形支部においては議案が否決されたのに、その選出代議員らに対し、右原告らおよび原告五十嵐らその同調者が、あたかも、政暴法について争議行為を行なうのは当然であり、これに反対するのは御用学者の一方的な学説に惑わされ、非民主的な勢力の手先となるものであり、支部では否決されたけれども、政暴法反対のため争議権をかけて闘う必要があるので皆に分つてもらえると思うなどと論じて働きかけ、規約第四九条に違反した表決をさせて、前記争議権を確立した。

そして、右原告らは、一〇月一七日、二二日、二九日開催された第二ないし四回の中央闘争委員会において、政暴法反対の闘争日程と闘争方法を提案可決させ、これに基づいて、左記「指令」および「発」等を発し、従組員をして前記違法な争議行為を実行させたのである。

中闘発第一号(市内三支部闘争委員長宛)

〈1〉 市内三支部は一七、一八日の安保県民会議の主催する政暴法粉砕の署名活動、チラシ配布に中闘から一名派遣せよ。

〈2〉 一七、一八日午後一時から個別訪問、署名活動に支部闘から各一名派遣せよ。

中闘発第五号(東京、平、相馬、白石、古川、佐沼、盛岡、山形、石巻支部組合員宛)

一九日午後五時より街頭でステツカー張り、個別訪問、署名運動を実施せよ。

中闘発第六号(市内三支部闘争委員長宛)

一九日一二時半県庁前出発の政暴法粉砕のための自転車・バイクの行進に四名参加せよ。

(以上は一〇月一七日付)

中闘指令第五号

全分会長は一〇月二五日以降時間外勤務および休日勤務協定の締結を拒否し、全組合員は時間外勤務および休日勤務を拒否せよ。ただし、東京支部関係者は午後六時以降拒否せよ。

中闘指令第六号

一、全組合員は、日米安保条約破棄達成県民会議と、それぞれの地区、地域共闘会議の開催する一〇月二五日、二六日の統一行動に積極的に参加せよ。統一行動の予定のないところは、分会独自の計画をたて、ステツカー張り、個別訪問、署名をおこなえ。

二、全組合員は、一〇月二六日以降、午前八時四五分より午後五時まで「政暴法粉砕」のリボンを左胸に着用せよ。

中闘指令第七号

全組合員は一〇月二六日以降当宿直を拒否せよ。

中闘指令第八号

全支部分会は個別訪問署名ステツカー張りについて具体的に計画を立て、一〇月二八日まで全部完了するよう実施せよ。

(以上は一〇月二二日付)

中闘指令第九号

一、全組合員は中闘指令第七号に基づく当宿直の拒否を一〇月三〇日より解除せよ。

二、全支部闘争委員長は、第四回中央闘争委員会の方針にしたがつて、一切の同盟罷業以外の指令権ならびに指名スト権が付与されたので、今後支部闘争委員会の充分な討議を経たうえで有効に実施せよ。

中闘指令第一〇号

一、全組合員は、中闘指令第五号に基づく時間外および休日勤務の拒否を一〇月三〇日より解除し、時間外休日勤務協定を一一月三〇日まで従来どおり締結せよ。

二、全分会長は、今後の時間外休日勤務協定の締結にあたつては、支部闘争委員長に時間外休日勤務拒否権が付与されているので、その指示にしたがつて行動せよ。

(以上は一〇月二九日付)

(四) 右原告らの以上の行為は就業規則第五九条第二、三、五、六および一〇号に該当する。

2 不当宣伝。

(一) 従組は昭和三六年一〇月二七日分裂し、訴外七十七銀行労働組合が結成されたが、右分裂が被告とは何ら関係がないのに、従組は、昭和三六年一一月初旬から同年一二月末日まで、被告が暴行、脅迫、監禁等悪らつな方法で支配介入を行なつて従組を分裂させた旨、あるいは、被告が資本家だけを相手にして労働者を相手にしない銀行である旨等の全く虚偽の事実を記載したビラ(乙第一二号証の一ないし一五)を大量に作成し、これを街頭配布、戸別配布、郵送、新聞折込み等の方法によつて一般に配布し(仙台市内だけで一一月五日ないし一一日の間に合計八万枚を配布)、また、被告の経営者が第二組合を作り従組を弾圧している等前同様の趣旨の虚偽の記載をしたステツカーを作成し、石巻市ほか一〇か所に多数(迫町だけで七〇枚)を貼付し、さらに、平市内では、マイクにより前記ビラ(乙第一二号証の五)と同旨の宣伝を行ない、一般市民に、被告に対する疑惑と反感を醸成せしめ、もつて被告の名誉と信用を著しく毀損した。

そして、頭記原告らが、従組の中央執行委員として、従組の行なつた不当な宣伝活動について責任を負わねばならないことは当然である。もつとも、右ビラの中には支部作成名義のもの(乙第一二号証の五、六は平支部、同号証の七、一五は白石支部、同号証の八は亘理支部、同号証の九は佐沼支部、同号証の一〇は石巻支部)があるが、これらビラは、その資料の主なものを従組本部に依存し、作成配布についても本部教宣部ないし支部派遣の中央闘争委員の指揮指導によるものであるから、中央執行委員である右原告らがこれら支部名義の不当なビラについて責任を負わねばならないのは当然である。

(二) 右原告らの宣伝活動は就業規則第五九条第二、三、五、六および一〇号に該当する。

3 不法侵入。

(一) 従組は、昭和三五年四月行なつたストライキの際、各営業店において、多数の他労組員の支援を得て、銀行側要員の入店を阻止したり、店内に侵入して執務中の銀行側要員の執務を妨害したことがあり、しかも他労組員が、昭和三六年一〇月二七日から三〇日にかけて、河原町、名掛丁、大学病院前支店等数支店に侵入し、支店長らの制止をきかず、店内で執務中の職員を説得したりなどして執務を妨害したので、被告は、職場の秩序を維持するため、同月三〇日以降、全営業店の出入口に、「当行以外の労組の方の入店を固くお断りします」と記載した張紙(同年一一月一一日、誤解を避けるため「当行以外の労組員の方の組合活動のための入店は固くお断りします」と文言を改めた)をし、かつ、営業店の保安を確保するため、従組から会議その他の行事のため店舗内の部屋の使用の申込みを受けた場合には、就業時間中は一切認めず、就業時間後、他労組員が参加せず、業務に支障がないものと認められる場合に限り、午後八時まで使用を認めることとし、その旨全営業店長に指示し実行させた。

しかるに、従組は、一一月二日、中央闘争委員会を開き、闘争の重点を張紙の撤去に置くことを決め、同日以降全店の従組員にその旨指示指導し、以下述べるとおり、従組員をして、前記張紙をはがさせたり、就業時間中他労組員を店舗内に導入するなどして、職場の秩序を乱し、被告の業務を妨害し、被告に損害を与えたのである。

そして、中央闘争委員会の中核はあくまで中央執行委員である右原告らであるから、同原告らは、これら違法行為に関する企画、決定、指令、実行のすべてについて当然に責任を負わねばならない。

かりに、これらの違法行為が、支部闘争委員会独自の企画、決定、指令によるものであるとしても、それは前記指令第九号により中央闘争委員会から各支部長に委譲された指令権に基づくものであるから、その指令権を委譲した中央闘争委員会の中核である右原告らが支部で決定されたことによる行為についても責任を負わなければならないことは当然である。

(二) 違法行為の内容。

(1) 従組鉄砲町分会長は、昭和三六年一〇月三〇日、鉄砲町支店長が張つた前記張紙三枚を同支店長の意に反してはがし、従組は一一月一日付闘争日報(乙第一九号証)でこれを賞讃奨励し、その後一迫支店、若柳支店等で従組員に張紙をはがさせた。

(2) 従組築館分会長ら従組員三名は、同年一一月七日、築館支店応接室で分会会議を開催するにあたり、同支店長からあらかじめ他労組員を含める会合であれば室を貸さない旨申し渡されていたのに、午後五時頃、他労組員一名を同店営業室横入口から同支店に導入し、手を上げて制止する同支店長を、他労組員と共に、身体で強引に押しのけて応接室に侵入した。

(3) 従組石巻支部長ら従組員数名は、同月九日、石巻支店で支部大会を開催するにあたり、同支店長から「他労組員を入れての会合には室を貸さない」と申し渡されたにもかかわらず、午後五時頃、約三〇名の他労組員を裏入口から同支店に導入し、三名の同支店調査役次長らから再三にわたり制止されたのに、多数の威力を示してこれを畏怖させ、同支店三階会議室に侵入し、約二時間にわたつて従組および他労組員合計八〇名位でこれを占拠した。

(4) 原告諸岡および従組員二名は、同月一一日午前一〇時頃、全日自労の組合員約二〇名を、宮町支店正面入口から同支店内に導入し、同支店長を全員で取り囲み、「張紙をはがせ、我我土方はこれが普通の声だ」等と大声を立て、肩を怒らせて激しく詰め寄るなどして午後零時近くまで、右支店長をつるし上げ、もつて職場の秩序を乱し、業務を妨害した。

(5) 従組石巻支部執行委員一名が、同月一五日午前一一時四五分頃、他労組員一名を矢本支店営業室横入口から店内に導入し、同支店長に対し、「休憩時間に休憩室で従業員の方方と話したいからよろしく」と申し入れたので、右支店長が「張紙にあるように他労組員の入店はご遠慮願いたい」と申し向けて退去を求めたところ、他労組員をして、「どんな理由で拒否するのか、その理由が納得できないうちは出て行かない」などと云わせ、午後零時二五分頃まで支店長席脇の椅子に座り込んで退去を拒み、午後零時四五分頃再度入店し、他労組員と共に支店長席脇の椅子に座り込んで退去せず、これを同支店長代理が写真に取つたところ、右支店長代理と支店長に対し、「何故写真をとつたのか、支店長が命令したのでないか」と午後一時一五分頃までしつこく抗議し、さらに、従組石巻支部書記長外従組員一名が、同日午後四時五〇分頃、他労組員一名を同支店裏入口から店内に導入し、右支店長代理に対し、「何故写真にとつたのか」と約三〇分間にわたりしつこく抗議した。

(6) 原告我妻および同山田研二外二名の従組員が、同月一七日午前一一時一〇分頃、他労組員二名を丸森支店正面入口から店内に導入し、同支店調査次長の制止を無視して、営業室で執務中の職員目黒とみ子に対し、全員で取り囲み、三〇分以上にわたり、同女の母が従組をひぼうした、謝まれ等と激しく攻撃し、もつて、職場の秩序を乱し業務を妨害した。

(7) 従組築館分会長外一名の従組員は、同日午前一一時五〇分頃、他労組員一名を築館支店営業室横入口から店内に導入し、同支店長から再三にわたつて他労組員の退去を求められたのに、これを無視し、店内の従組員二名と共に、他労組員を護衛して、強引に宿直室に侵入させた。

(8) 従組員二名は、同日午後〇時三〇分頃、他労組員一名を、中津山支店正面入口から店内に導入し、同支店長から他労組員の退去を求められたのに、「組合運動に干渉しては困る、従組の支援に来ている人だから入つても良いではないか」と云つてこれに応ぜず、食堂に通ずるドアを閉めようとした右支店長の身体を前後から暴力で押しつけ、そのすきに他労組員を食堂に侵入させ、その後右支店長から再三「他労組の方は出て行つて下さい」と云われたのにこれを無視し、約一時間にわたり食堂を不法に占拠した。

(9) 原告鈴木および同五十嵐外一名の従組員は、同月一八日午前一〇時頃、他労組員十数名を、岩沼支店正面入口から店内に導入し、同支店調査役次長およびその後帰店した支店長に対し、約二時間にわたり、「張紙をはがせ、調査役次長が不当労働行為をした、この野郎が一番生意気だ」等ときわめて粗暴な態度で暴言をはき、もつて、職場の秩序を乱し業務を妨害した。

(10) 原告佐久間ら数名の従組員は、同月二〇日午後二時半頃から約二時間にわたり、従組を守る仙台地区共闘会議と称する一〇名以上の他労組員を、本店西側入口に誘導し、同所において他労組員と共に、業務課長、調査役人事課次長らに対し、「戸を開けろ、我々は頭取に会いに来たんだ、早く取り次げ、ふざけるなこの野郎」と甚だ悪質粗暴な言動で頭取との面会を強要し、入店を阻止した右調査役人事課次長の手を力一ぱい引つ張り、同人が倒れそうになつたすきに店内に侵入しようとしたり、さらに同入口前の通行人らに対し、「七十七銀行はこの通りお客さんを入れさせませんよ」と大声を上げ、もつて、職場秩序を乱し、業務を妨害し、被告銀行の名誉と信用を傷つけた。

(11) 原告我妻は、同月二一日午前一一時五〇分頃、他労組員二名を村田支店正面入口から店内に導入し、同支店長に対し、約五〇分間にわたつて、狂人に等しい態度で、しつこく、「張紙をはがせ」とわめき、他労組員と共に、「こういう分らず屋の支店長には地区労全力をもつて実力行使する、地銀連四万をもつて必ずやるから覚悟しろ」等と怒鳴り散らして脅迫し、もつて、職場の秩序を乱し、業務を妨害した。

(12) 従組石巻支部長ら従組員数名は、同月二五日午前一一時四五分頃、他労組員四名を石巻支店正面入口から店内に導入し、さらに他労組員および従組員約三〇名を同様店内に雪崩込ませ、同支店長が拒否したのに面会を強要し、右支店長がやむを得ず一〇分間に限り代表者三名と応接室で面会したところ、多数の威力を背景にして約一時間にわたり、右支店長に対し、「張紙をはがさないなら捨身の戦法でくるがそれでもよいか」等と語気荒くつるし上げ、その間他の従組員一名は、客溜りで、顧客に対し、被告銀行をひぼう中傷するビラ(乙第一二号証の一二)二〇枚位を配布した。

(13) 従組石巻支部書記長ら従組員三名は、同日午前一一時一五分頃、他労組員一三名を本町支店正面入口から店内に導入し、同支店調査役次長から退去を求められたのに応ぜず、他労組員と共に、支店長代理を囲み、「分裂したところでは皆労働者がみじめになつている、おめえ達はそういうことを無視してやつているのか、張紙をはがすよう銀行に交渉しろ」等と従組の分裂や張紙について粗暴な態度で約三〇分にわたりつるし上げた。

(14) 従組石巻支部長および同書記長の両名は、同月二八日午前一一時四〇分頃、他労組員一名を石巻支店正面入口から店内に導入し、同支店調査役次長が入店を拒否したのに、他労組員と共に営業室に入り込み、店内の従組員と共に二階に上ろうとし、これを制止した右調査役次長を身体で強く押すなどして暴力で無理に二階食堂に侵入した。

(15) 原告佐久間ら従組員は、同日午後一時二五分頃、安保廃棄仙台中央部地域共闘会議員と称する他労組員三名を、鉄砲町支店東側通用口から店内に導入し、応接室で、同支店長に対し、約一時間にわたり、「張紙をはがせ、もう少し誠意ある返事をしたらどうだ」などと申し向けてつるし上げ、もつて、職場の秩序を乱し業務を妨害した。

(16) 原告佐久間ら従組員数名は、同月二九日午後二時頃、従組を守る仙台地区共闘会議員と称する他労組員三名を本店西側入口から店内に導入し、人事課長から再三退去を命ぜられたのに応ぜず、三階廊下で、約二時間にわたり頭取との面会を強要し、もつて、職場の秩序を乱し、業務を妨害した。

(17) 原告新田および従組南支部書記長は、荒町支店長から、他労組員を入れないことを条件に同支店二階会議室を合同分会会議の会場として借りたのに、右条件に違反し、同月一五日午後五時一五分頃、他労組員一名を荒町支店裏口から店内に導入し、同支店調査役次長から退去を求められたが、約五〇分にわたつて二階会議室を従組の合同分会会議に使用し、もつてこれを不法に占拠し、右調査役次長に対し、「他労組員の人が入つてどうして悪いんだ、入店を認めろ」等としつようにつめより、もつて、職場の秩序を乱し、業務を妨害した。

(18) 原告五十嵐は、同月六日午後零時一〇分頃、他労組員一名を岩沼支店行員通用口から店内に導入し、同支店長および調査役支店次長に対し、「あんな張紙ははがしてしまえ、支店長、調査役はくびになるのがおつかないのか」等と約五〇分にわたつてくつてかかり、もつて、職場の秩序を乱し、業務を妨害した。

(19) 従組仙台南支部従組員二名は、同月八日午後二時五〇分頃、他労組員一名を南町通支店正面入口から店内に導入し、同支店長から他労組員の退去を要求されたのに、他労組員と共に、「何故入れないのか」と文句をつけ、約二〇分にわたり、職場の秩序を乱し、業務を妨害した。

(20) 白石支部従組員一名は、同月二四日午後二時一〇分頃と五〇分頃の二回にわたり、他労組員七名を無断で丸森支店正面入口から店内に導入し、同支店長が再三面談を断つたのに、延べ一時間以上にわたり、「営業室で話せないなら休憩室で話し合いに応じたらよいではないか」等と申し向けて面談を強要し、もつて、職場の秩序を乱し、業務を妨害した。

(21) 白石支部従組員一名は、同支部書記長と共に、同月二四日午前一一時二〇分頃、他労組員六名を角田支店正面入口から店内に導入し、同支店長から退去を求められたのに、不法に営業室に坐り込み、「張紙は不当労働行為だ」と支店長にくつてかかり、もつて、職場の秩序を乱し、業務を妨害した。

(22) 原告山田研二は、同月二〇日午後四時頃、他の従組員三名と共に、他労組員一名を、無断で角田支店裏口から店内行員休憩室に立ち入らせ、支店長に対し、「不当労働行為をするな」等と約三〇分にわたつてくつてかかり、もつて、職場の秩序を乱し、業務を妨害した。

(三) 頭記原告らの責任。

就業規則第五九条第二、三、五、六、一〇号に該当する。

4 労働協約違反の争議行為。

(一) 賃上げを目的とする争議行為。

従組は、別紙第五記載の労働協約第四六条に違反し、被告に対し、昭和三七年三月二二日正式に賃上げ要求書を提出してから三週間が経過しない同月二六日、突如二八日以降争議行為を行なう旨通告し、原告我妻、同佐藤、同山田純一および同沼波ら仙台市内の従組員一七名をして同日午前八時四五分から同一〇時四〇分頃まで指名ストライキを行なわせ、原告山田破魔雄ら盛岡支店勤務の従組員八名をして同日午前八時四五分から同一〇時頃までおよび同年四月一〇日午前八時四五分から同一一時頃までストライキを行なわせた。

(二) 組織防衛のための争議行為。

前述のとおり、従組は、昭和三六年一〇月二七日以降政暴法反対のための指名ストを行なつたが、かりに、それが政暴法反対のためではなくて組織防衛のためであつたとしても、従組は、被告に対し、何ら具体的要求を提示せず、経営協議会の審議を経ないで、これを行なつたのであるから、右争議行為は労働協約第四五条、四六条に違反し、労使間の信義則に違反する違法不当な争議行為である。そして、従組は、昭和三七年七月九日政暴法反対のための争議を解除した後も、組織防衛を目的とする宿日直勤務拒否の争議行為を行なつたのであつて、これは前同様労働協約第四五条、四六条に違反する違法不当な争議行為である。

(三) 以上の行為は就業規則第五九条第二、三、五、一〇号に該当する。

5 委員長不当声明等。

従組は、昭和三七年八月二五日付機関紙「七十七」(乙第二三号証)に、中央執行委員長原告菅原の名で、「敵の弱点をつき統一して闘かおう」という標題のもとに、「大企業には優先融資と低金利、地元中小企業にはシメダシと高金利などの事実をばくろして、統一して預金をさせない、へらしてゆく活動、銀行の信用を失墜させる行動をする必要があります」と強調した声明を掲載し、右機関紙六〇〇〇部を従組員ならびに外部の人に頒布し、さらに、同年九月一〇日、中新田支店周辺の電柱、塀、壁等に、「七十七銀行は大企業を太らすため中小企業をつぶす」「金のない者には金を貸さない、それが七十七銀行だ」「中小企業の敵、労働者の敵、七十七銀行をたたけ」「血まよつた経営者は即時退陣せよ」「七十七銀行経営者は妊婦を殺そうとした」「吸血鬼氏家七十七副頭取!町民の力で七十七から追いだそう」「七十七銀行よ中小企業にも金を貸せ!」「七十七の経営者は殺人未遂までやつて従業員組合をつぶそうとやつきになつています」「七十七の独裁者氏家栄一副頭取即時退陣せよ」「野獣、狂人、非人、冷酷……七十七の解雇に反対!」「仮面をかぶつた鬼、それが七十七銀行の経営者だ!」「従業員を苦しめ、中小企業を苦しめている七十七銀行の経営者に抗議しよう!」「腹黒い経営者のいる七十七銀行に金を預けるな」等被告銀行ならびにその経営者を悪どい表現でひぼうしたステツカー約一三〇枚を張り付けて、被告銀行の営業を妨害し、被告銀行ならびに経営者の名誉と信用を傷つけた。

右行為は就業規則第五九条第三、五、六、一〇号に該当する。

二、右原告らがみずから行つた行為。

1 原告菅原は一の5の声明文を自己の名で掲載―就業規則第五九条第三、五、六、一〇号に該当。

2 原告佐々木は、

(一) 昭和三六年一一月二五日午前八時半頃、仙台市青葉通り両羽銀行仙台支店前で、一の2のビラ(乙第一二号証の一)を通行人に配布―同規則同条第二、三、五、六、一〇号に該当。

(二) 同三七年三月二八日行なつた一の4の(一)記載のストライキに参加して職場を放棄し、仙台市内の従組員一二名を指揮してデモ行進を行なわせみずからこれに参加―同条第二、三、五、一〇号に該当。

3 原告沼波は右佐々木の(二)と同じ。

4 原告鈴木は、

(一) 一の3の(二)の(9)の行為―同条第二、三、五、六、一〇号に該当。

(二) 同三七年四月一〇日行なつた一の4の(一)記載のストライキに際して、盛岡支店従組員および他労組員数名を指揮して同支店正面入口およびその左側附近において労働歌を高唱するなどし、職場の秩序を乱し、銀行の業務を妨害して損害を与えた―同条第二、三、五、一〇号に該当。

(三) 従組機関紙「七十七」の編集発行人として、一の5の機関紙を編集発行―同条第三、五、六、一〇号に該当。

5 原告諸岡は一の3の(二)の(4)の行為―同条第二、三、五、六、一〇号に該当。

6 原告我妻は、

(一) 一の3の(二)の(6)および(11)の行為―同条同各号に該当。

(二) 柴田郡村田町の新聞販売店に依頼して、昭和三六年一一月二二日、一の2のビラ(乙第一二号証の一)約一、〇〇〇枚を朝刊に折り込み配布させた―同条同各号に該当。

(三) 原告佐々木の(二)の行為―同条第二、三、五、一〇号に該当。

7 原告新田は、一の3の(二)の(17)の行為―同条第二、三、五、六、一〇号に該当。

8 原告山田純一は原告佐々木と同じ。

9 原告佐藤は原告佐々木の(二)と同じ。

第二、原告五十嵐、同佐久間、同山田研二および同山田破魔雄の処分理由。

一、原告五十嵐。

1 亘理支部闘争委員長ないし中央闘争委員として第一の一の2のビラ(乙第一二号証の八)の作成配布の企画、決定、指令および指導に参与し、みずから第一の一の3の(二)の(9)および(18)の行為を行なつた―同条第二、三、五、六、一〇号に該当。

2 亘理支店職員として左記行為をし、職場秩序を乱し、被告銀行の名誉と信用を毀損して損害を与えた。

(一) 昭和三六年五月二三日、亘理支店で臨店検査が行なわれた際、同支店長から、昼食と休憩は店舗続きの社宅でするよう申し渡されたのに午後零時半頃から、他の職員三名と共に、検査が行なわれていた二階休憩室に入り込んでマージヤンをし、同支店調査役次長から制止されると、「マージヤンをやつて何が悪いんだ」等とくつてかかり、さらに支店長から制止されると、「休みは何をしてもよい筈だ」等と暴言をはき、午後一時三〇分頃まで同室から立ち退かないで、検査業務を妨害した。

(二) 同年六月当時出納元締めを担当していたが、銀行事務取扱規定(出納編第三三条)に従つて帯封した札束を再鑑束して支払いに備えなければならないのに、同月二九日再鑑を怠り、翌三〇日、再鑑を怠つた札束を顧客に支払つたため金一万円の不足金を生じさせ、しかも、この不祥事件を直ちに支店長に報告してその指示を仰ごうとせず、事実の確認をしないで、当日支払いをした一顧客に、過払いしたから返して欲しい旨誤つた電話をかけ、同人に被告銀行に対する不信感と不快感を与え、支店長から顛末書の提出を求められると、七月六日になつて、「顧客に支払つた千円札一〇万束が一〇枚不足しているのがわかつた(6/29五十嵐結束)。」等と書いた簡単な書面(乙第二六号証の一)しか提出しないので、支店長がさらに同月一〇日祥細な顛末書を提出するよう命じたのに、直ちに従おうとせず、同月一八日になつて、ようやく、「事故が起きるのは人員が足りないからである」等と自己の責任を銀行に転嫁する内容の不遜きわまりない書類(同号証の二)を提出し、自己の行為について全く反省がみられなかつた。

(三) 同年九月二一日午後二時五五分頃、顧客からの天出金の請求を受け付けた際、右顧客の面前で「ああ今日はあきた」と大声を張り上げ、銀行員としてあるまじき言語同断の態度を示した。

(四) 同月二六日午後二時頃、被告銀行の仙南地区預金増強パレードが亘理支店前に到達し、同支店調査役次長ほか二、三名の行員が店頭で歓迎のクラツカーを鳴らした際、店内の自席で、数名の顧客がいるのに、「うるさい」と大声で怒鳴り散らし、顧客ならびにパレードの参加者にきわめて不快な感じを与え、銀行員としてあるまじき態度を示した。

(五) 同年一〇月一六日午前九時頃、亘理支店内において、支店長に対し、特段急を要する事情がないのに、「今日就業時間中人員増加の件で職場協議会を開いてくれ」と申し入れ、支店長から「今日は両代理が休んでおり、検印者がいなくなるから時間後にしてくれ」と回答されたのに、さらに開催を要求し、その際支店長から、「検印を受けた顧客の通帳三、四冊をお客に渡してからお話しをしよう」と注意されるや、「仕事どころではない」と大声で怒鳴り、手にしていた通帳をそばにあつた支店長代理の机の上にたたきつけ、これを一たん自席に持ち帰り顧客に渡したが、再び支店長の席まで来て、「職協を申し込んだのに仕事をしろといつたのは不当労働行為だ、組合大会にかけて問題にしてやる」等と暴言をはいてしつようにくい下がつた。

(六) 同年一一月一、二日就労しなかつたので、同月五日被告銀行から賃金の支払いを受ける際右二日分の賃金をカツトされたが、同月六日午前八時五〇分頃、亘理支店内において、他支店の従組員一名と共に、顧客のいるのも顧りみず、支店長に対し、「カツトした賃金を返せ、支店長は泥棒だ、説明のできないようなでくの棒支店長とは思わなかつた、カツトの理由を答えなければ答えるまで支店長が病気になるとも気狂いになるとも毎日来る」等と約一時間にわたり暴言をはいて脅迫した。

(七) 昭和三七年三月九日、無届で出勤せず、昼食時間頃亘理支店に来て出勤簿に捺印したが、仕事をしないで帰つたので、支店長が右出勤印を欠勤に訂正したところ、同月一四日午後四時頃、亘理支店内において、支店長に対し、「俺が押した判の上に勝手に欠勤印を押したのは支店長か」と喰つてかかり、支店長が「仕事もしないで判を押したから出勤だということでは職場の規律が成り立たない。」と答えたところ、形相すさまじく、出勤簿を取り上げて机の上にたたきつけ、支店長が「何をするか気をつけたまえ」と注意すると、停年退職間際の支店長に対し「たまえとは何だ、往生際の悪い」と罵言をあびせた。

以上の行為は、いずれも、就業規則第五九条第二、三、五、六、一〇号に該当。

二、原告佐久間。

1 従組仙台南支部闘争委員長ないし中央闘争委員として左記行為の企画、決定、指令および指導に参与した。

(一) 第一の一の3の(二)の(1)の鉄砲町支店の張紙をはがした。

(二) 第一の一の3の(二)の(4)、(17)、および(19)の各行為。

2 第一の一の3の(二)の(10)、(15)および(16)の各行為を自ら行なつた。

3 以上は就業規則第五九条第二、三、五、六、一〇号に該当。

三、原告山田研二。

1 従組白石支部闘争委員長ないし中央闘争委員として左記行為の企画、決定、指令および指導に参与。

(一) 第一の一の2のビラ(乙第一二号証の七)を作成し、槻木町、船岡町、白石市内で一般に頒布。

(二) 第一の一の3の(二)の(20)および(21)の各行為。

2 自ら第一の一の3の(二)の(6)および(22)の各行為を行なつた。

以上は就業規則第五九条第三、五、六、一〇号に該当。

四、原告山田破魔雄。

1 盛岡支部闘争委員長ないし中央闘争委員として、盛岡支店における一の4の(一)記載のストライキについて企画、決定、指令および指導に参与。

2 右ストライキの際、従組員および他労組員を直接指揮して、昭和三七年三月二八日には盛岡支店正面入口附近で鉢巻をしめ、赤旗、プラカードを掲げる等して集合させ、気勢を上げ、同年四月一〇日には同支店正面入口およびその附近で労働歌を高唱させ、職場の秩序を乱し、業務を妨害し、被告銀行の名誉と信用を毀損し、損害を与えた。

3 以上は就業規則第五九条第二、三、五、一〇号に該当。

別紙 第四

第一について。

一、について。

冒頭の事実のうち、被告主張の原告らが従組の中央執行委員であつたこと、その職責の限度で従組の業務に従事したことは認めるが、その余の事実はすべて否認する。

別紙第三の第一の一における被告の主張は、同二の事実と対比して明らかなとおり、右原告らがみずから行なつた行為について責任を問うものではなく、従組の役員ということだけで、従組が違法不当に行なつたという行為について懲戒責任を問うものである。しかしながら、労働組合の役員が、その組合に対して役員としての責任を負うことは当然であるが、使用者に対して、労働者として負う義務以上に、組合の役員として特別の義務や責任を負うものではない。したがつて、組合役員に対する懲戒処分も一般組合員の場合と同様、就業規則に従つて具体的に懲戒事由の存否が検討されなければならない。

従組の役員であるということだけで、従組の行なつた一切の責任を追求しようとする被告の態度は主張自体失当である。

1 政暴法反対闘争について。

(一)について。

冒頭記載の事実のうち、争議行為の点を否認し、その余の事実は認める。すなわち、従組の行なつた諸活動によつて被告の業務の正常な運営が阻害されたことはないのであり、その意味で従組の活動は争議行為に該当しない。

(1)および(2)について。

従組員が政暴法反対のため被告主張の運動に参加したこと(ただし築館支店においては、一〇月二六日、二七日の両日、署名、ステツカー張り、チラシ配布を行なつた事実はない)は認めるが、就業時間中無断で行なつたことは否認する。

従組員が政暴法反対のために行なつた右運動は、就業時間外に行なわれたかあるいは就業時間中の場合でも上司に届け出てその了解を得て行なわれたものであるので無断職場放棄とはいえない。

かりに、一部上司の許可が得られないまま離席したとしても、その離席は時間的に僅かであり、業務に支障を来たすようなものではなかつた。しかも、被告の就業規則第三九条、四一条は別紙第二記載のとおり、就業時間中の離席または組合活動について届出制を採用しているのであり、職場においても従業員が所定の時刻から若干前後して出退することを慣行として容認していたのであるから、右程度の僅かな時間の離席を特に非難されるいわれはない。

被告は、その第五準備書面において被告「銀行が仙台市内の従組員一二名に昭和三六年一〇月一七日および一八日街頭署名および個別訪問を行なわせた事実を知つたのは従組闘争速報(乙第五号証の一、二)によつたものである。闘争速報以外については分らない。銀行が一五名の従組員に政暴法反対のための自転車宣伝隊行進に参加させた事実を知つたのは闘争速報(乙第五号証の三)によつたものである」と釈明していることによつても明らかなとおり、同準備書面を提出するまで、被告は従組員が勤務時間中勝手に職場を離脱したとの認識を持つていなかつたのであり、また、右一連の行動に参加した従組員に対しては、処分留保、警告その他何らの意思表示をしなかつたのである。これらの事実は、被告が右行為当時は全く意に介さず、その後原告らを処分するため敢えてこれを問題にするに至つたこと、すなわち本件処分が不当労働行為そのものであることを示すものである。

(3)および(4)について。

時間外・休日勤務協定拒否および宿日直拒否が行なわれたことは認めるが、一〇月二九日までに行なわれたものは、政暴法反対のためだけでなく、政暴法反対と同時に大会で争議権が確立されたいわゆる三要求(従組が昭和三六年六月被告に対して提出して以来相互に交渉のもたれていた五要求のうち女子職員不当転勤、身元保証、研修に関する三要求)実現のためでもあつたのであり、翌三〇日以降行なわれたものは、政暴法反対のためではなく、一〇月二七日早朝スト権が確立された不当労働行為排除と組織防衛のためのものである。すなわち、従組は、昭和三六年一〇月二五日、分裂策動の事実を知り翌二六日第六回臨時組合大会を召集し、分裂策動に関与した一名を除名、一名を権利停止処分に付し、翌二七日早朝被告の不当労働行為の排除と組織防衛のためのスト権を、賛成一〇四、反対二八、保留一の割合で可決した。そしてその数時間後第二組合が結成され、被告による激しい切崩しが始められたので、従組は一〇月二九日第四回中央闘争委員会を開催し、被告からの分裂攻撃に如何に戦つて行くかを討議し、各職場で分裂攻撃をはね返して行くためには本部の全体的方針では駄目で各支部が機動的に動く必要があることから、各支部闘争委員長に中闘指令第九、一〇号により、同盟罷業以外の指名ストを含む一切の争議行為の指令権を付与し、中闘指令第五号に基づく時間外・休日勤務拒否の指令を解除したのである。したがつて一〇月三〇日以降に行なわれたものはすべて支部闘争委員長の指令による組織防衛のためのものであつて政暴法反対のためのものではなかつた。

しかも、時間外・休日勤務協定を締結するか否かは全く労働者の自由であり、また宿日直は三六協定の締結がなければそもそも問題とならないものであるからこれらを拒否したからといつて違法な争議行為とはいえない。

(5)について。

従組員が一〇月二六日から同月末日まで被告主張のリボンを着用したことは認めるが、その余は否認する。すなわち、政暴法は一〇月三一日参議院で再度継続審議になり、事実上廃案となつたので、従組は一一月一日口頭でリボン着用の指令を解除し、同日以降政暴法反対のためのリボンを着用しなかつたのである。

そして、本件リボンの着用は、被告の業務を阻害したり職場の秩序を乱すものではないからこれを違法な争議行為として懲戒責任を問うことは許されない。

(6)および(7)について。

従組が、昭和三六年一〇月二七日以降、各支部において一せいランチおよび指名ストライキを行なつたことは認めるが、その余の事実は否認する。すなわち一せいランチと指名ストは、組織防衛のためであつて、政暴法反対のために行なつたものではない。

しかも、一せい休憩は労働者の権利であり、被告の就業規則第二五条は本文でこれを原則として認めているのであるから、争議行為として非難されるいわれはない。

また、被告と従組との間の労働協約には懲戒処分について同意約款が定められているので従組の同意を求める手続において提示された懲戒事由と異なる事由を、その処分の有効性が争われている訴訟で主張することは許されないのであるが、(6)および(7)の事実は、被告の本訴第二準備書面においてはじめて処分事由として挙示するに至つたものであつて、被告の従組に対する同意を求める過程においては、処分理由とされていなかつたのであるから、右事実を主張すること自体許されない。かりにそうでないとしても、被告は本件処分当時、右事実については認識を欠いており、本件処分が右事実に基づいて懲戒権を行使したものとはいえないから、本件処分の正当性の判断の前提として右事実の有無を判断する必要はない。このような処分事由の追加はそれ自体被告の不当労働行為意思を示すものである。

(二)について。

否認。政暴法は実質的には、民主主義的諸活動を抑圧するためのものであり、これが法律として成立すれば、労働組合運動が不当に制限されたり、労働組合の存在自体否定される虞れがあるので、労働者として団結権を擁護するため政暴法に反対するのは当然のことであり、その目的実現のため争議行為を行なつたとしても、それは労働者の経済的地位と直接ないし密接な関連を有する争議行為であつて、憲法第二八条の保障する正当な争議行為の範囲内の正当な行為である。

(三)について。

従組の行なつた政暴法反対の諸活動が、中央執行委員たる原告らのみの責任において行なわれたこと、中闘指令第五、七号が政暴法反対のためのみであつたことおよび同指令第九、一〇号が政暴法反対のために出されたものであることは否認するが、その余の事実は認める。右指令第五、七号は政暴法反対と前記三要求の共同目的のために出されたものであり、第九、一〇号は政暴法反対のためでなく、前記組織防衛のために出されたものである。

被告は、中央闘争委員会の発した指令および発を非難する。しかし、指令は従組員がこれに従わない場合には規約違反に問われるもので強制力があるが、発は、単なる連絡方法にすぎず、これに違反しても規約違反に問われることのない任意的なものであり、中央闘争委員会は被告主張の署名活動等について、就業時間内にこれを行なうよう指令を出したことはなく、就業時間にかかる諸活動については、各職場の状況に応じて行なわれるよう希望し、特に発という指示方法で伝達したにすぎないから、これらの点について中央闘争委員会の指示または発を非難すること自体失当である。

(四)について。

否認。

2 不当宣伝について。

(一)について。

被告主張の日従組が分裂して被告主張の第二組合が結成されたこと、従組教宣部および各支部が後述のとおり被告主張のビラ(ただし乙第一二号証の一一、一四は除く)を多数作成し、従組員らによつてこれが一般に配布されたこと、被告の経営者が第二組合を作つて従組を弾圧している趣旨のステツカーが従組員らによつて石巻市等に貼布されたこと、平支部従組員により被告主張のようなマイク宣伝が行なわれたことは認めるが、その余の事実は否認する。

従組は、分裂した日の翌日である昭和三六年一〇月二八日、中央闘争委員会を開催し、従組の教宣活動として次の基本方針を決定した。(1)分裂攻撃の実態を明らかにし、不当労働行為をはね返し、切崩しをはねのける。(2)分裂攻撃とたたかつている従組内外の状況を広げ、活動に自信を持つ。(3)分裂攻撃の本質について学習し、勝利の確信を持つ。(4)第二組合の御用性を明らかにし、真に労働者の利益を守る従組への団結を呼びかける。そして、従組の教宣部は、この基本方針に基づいて、被告の切崩し組合破壊の策動を具体的に書いたビラ(乙第一二号証の一ないし四、一二、一三)を作成し、各支部はこれを街頭配布、新聞折込み等の方法で頒布した外、各支部の切崩し、不当労働行為の事実を加えた独自のビラ(同号証の六、九、一五)を単独で作成配布し、他の支援団体と同種のビラ(同号証の五、七、八、一〇)を作成配布する等して教宣活動を行なつた。

しかしながら、本件宣伝活動の内容の基調は、すべて、従組の分裂が被告によつてなされたということにつきるのであつて、このことは全く真実であり、かりに文言において多少誇張や激越な表現があつたとしても組織攻撃に対する反撃として当然なことである。またかりに宣伝内容の一部に真実と異なる事実があつたとしても、従組の本部は支部からの報告を受けてそう信じたのであり、被告からの組織攻撃を受けて本部と支部との連絡が充分でなかつた当時の状況下ではそれはやむを得ないことであつた。そして、従組の宣伝活動は、従組の分裂を防ぎ団結を維持するために行なわれたものであつて、ことさら被告の名誉を害したり損害を加える目的で行なわれたものではない。したがつて、従組の宣伝活動はすべて正当な組合活動であり、何ら非難されるいわれはない。

(二)について。

否認。

3 不法侵入について。

(一)について。

従組が昭和三五年四月ストライキを行なつたこと、他労組員が昭和三六年一〇月二八日の昼食時間に河原町、名掛丁、大学病院前の三支店を訪問したこと、被告が同月三〇日以降その主張のような張紙をし、被告が従組に対し銀行施設の利用を制限したことは認めるが、その余の事実は否認する。すなわち、被告は職場の秩序を維持するために右張紙をしたと主張するが、それまで他労組員によつて職場の秩序が乱されたり、業務が妨害されたことはないのであつて、右張紙は従組支援の他労組員のオルグのための入店を拒否し、職場の従組員を職場に弧立させ、分裂攻撃を一層容易にするためになされたものであり、同時に右張紙に対する抗議活動を理由に従組を弾圧しようとして張られた不当なものである。そして他労組員がオルグのため従組員を訪問して店舗に立ち入ることは特段業務に支障を与えるものではなく、客溜りで銀行の職員と個人的な話しをしたり、カウンター越しに職員と会話をかわすことは日常行なわれていたことであり、従組の上部団体である地銀連東北地協の仲間達が従組員を職場に訪問して二言三言就業時間外の職場集会の打ち合わせをしたとしても、どれ程業務に支障があるというのであろうか。

また、従組の会合で何を議題とするか、誰を参加させるかは本来従組の内部で決定すべきことであり、これらの事項について被告が介入することは不当労働行為として許されないことである。しかも労働協約第一八条、五一条は別紙第五記載のとおり、被告は従組に対し、争議中であるといなとにかかわらず、組合活動のために銀行施設の利用を容認していたのであり、分裂までは実際、何ら条件を付けることなく、銀行の施設を従組の会合に利用させていたのである。したがつて、たとえ、従組が、被告の制止を無視して従組の会合に他労組員を参加させたからといつて、これをもつて懲戒事由とすることはできないのである。

また、従組員やこれを支援する他労組員が被告に対し組織破壊やちよう戦的張紙等被告の不当労働行為に抗議することは当然である。そして、かりにこの抗議活動によつて若干の業務妨害があつたとしても、その抗議活動を惹起した被告のあくどい切崩し、抗議行動を必要とする緊急性と対比して評価すれば到底違法なものとはいえない。

しかも、従組の行つた一連の抗議活動は従組本部で統一的に指導したものではなく前記支部長に委譲された指令権に基づき、支部で行なつた争議行為の範囲内の正当な組合活動であつて、これについて中執たる原告らが懲戒責任を問われる余地は全くない。

(二)について。

(1)について。

被告主張の者が、被告主張の日、鉄砲町支店において、その主張の張紙を支店長の了解を得てはがしたことおよび従組が闘争速報(乙第一九号証)でその事実を要約して報道したことは認めるがその余の事実は否認する。

(2)について。

被告主張の日時頃、築館支店の応接室で開催された従組の会合に他労組員一名が参加したことは認めるが、その余の事実は否認する。

(3)について。

被告主張の日時頃、石巻支店三階会議室で開催された従組の会合に他労組員が参加したことは認めるが、その余の事実は否認する。

(4)について。

原告諸岡が従組仙台北支部の要請により、被告主張の日の午前九時半頃宮町支店に行き、従組員加藤卓造と共に、支店長に対し前記張紙をはがすよう交渉したこと、相当時間経過後、全日自労の組合員三、四名が独自の立場で支店長に対し張紙の撤去を求めて交渉したこと、その交渉中従組員田中正が原告諸岡を迎えに来たことは認めるが、その余の事実は否認する。

(5)について。

従組員鈴木伸吉が、被告主張の頃、他労組員一名を伴なつて矢本支店に行き支店長に対し、昼の休憩時間中に従組員と話したいからよろしくお願いしたい旨挨拶したところ、支店長から退去を求められたので、その理由の説明を求めて交渉したこと、その後右鈴木が一時席をはずしたところ、被告主張の支店長代理が支店長と他労組員とが向い合つているところを写真に取つたので右鈴木らがこれに抗議したことは認めるが、その余の事実は否認する。断わりなしに写真にとられることは誰だつて不愉快であるのでこれに抗議するのは当然である。

(6)について。

原告我妻ら従組員が、被告主張の日他労組員と共に丸森支店に入店したこと(ただし他労組員は支店調査役次長に制止されて客だまりで待つていたにすぎない)従組員が目黒とみ子に対し同女が従組員に対してなした不当な切崩しについて抗議したことは認めるが、その余の事実は否認する。

(7)について。

被告主張の日、昼食時一せい休憩中、築館支店休憩室で開かれた従組の会合に他労組員一名が参加したことは認めるがその余の事実は否認する。

(8)について。

被告主張の三名が、被告主張の日の午後〇時五、六分すぎ頃、中津山支店に行き、支店長に対し休憩室で従組の会議を開きたいので貸してもらいたい旨申し入れたところ、支店長から組合の会議として使うことは差しつかえないが他労組の人を入れては駄目だと言われたので、組合の会議によその人を入れてはいけないということは不当労働行為になるから借りますと言つて食堂に入り、従組の会合を持つたことは認めるがその余の事実は否認する。

(9)について。

被告主張の日、亘理名取地区労を中心とした地域共闘会議所属の組合員が岩沼支店に行き、同支店調査役次長に対し張紙の撤去を求めて交渉したこと、原告鈴木、同五十嵐ら従組員がその交渉に後から参加したこと、さらに右交渉中帰店した支店長に対し、張紙について交渉したことは認めるが、その余の事実は否認する。

(10)について。

被告主張の者が、その主張の日時頃、被告の不当な張紙について抗議するため本店に行き、その主張の者達によつて入店を阻止されたことは認めるが、その余の事実は否認する。

(11)について。

被告主張の日、その主張の三名が村田支店に入店(ただし他労組員は客溜りに入つたにすぎない)したことは認めるが、その余の事実は否認する。

(12)について。

被告主張の日、石巻支店において、労組員の代表が支店長と応接室で面談し、張紙について抗議したこと、被告主張の者が店内でビラを配布したことは認めるがその余の事実は否認する。右ビラの記載内容は真実であり、これを配布することは労組の宣伝活動として当然許されるものであり、しかも同支店調査役次長の求めに応じて直ちに中止したのであつて、いまだ支店の業務に支障を与えるようなものではなかつたのである。

(13)について。

石巻地区労の労働者が被告主張の日、本町支店に行き、銀行側の不当な従組切崩しに抗議したことは認めるが、その余の事実は否認する。

(14)について。

他労組員が被告主張の日、石巻支店二階食堂の一隅にある従組石巻支部書記局を訪れ、一せい休憩中の従組員を激励したことは認めるが、その余の事実は否認する。

(15)について。

被告主張の日、従組員ら五名の者が鉄砲町支店に行き、一名の他労組員が支店長に対し、張紙をとるように抗議交渉したことは認めるが、その余の事実は否認する。右五名の者は支店長によつて応接室に招じ入れられたものである。

(16)について。

被告主張の日時頃、従組員佐久間正喜を責任者とする抗議団が、被告主張の頃、本店行員通用口から三階役員室前まで行き、その場にいた厚生課長に対し、秘書課長に会いたい旨告げ、静かに待つていたところ、古川人事課長ら非組合員約二〇名がでて来て帰れといわれ同人らと押問答したことは認めるが、その余の事実は否認する。

(17)について。

被告主張の従組員と従組の上部団体である地銀連東北地協のオルグ一名が、被告主張の日の営業時間終了後、荒町支店二階会議室に行き、支店長の了承を得てもたれた従組の合同分会会議に出席したこと、その際同支店調査役次長から他労組員の退去を求められたが不当であるので従組員がこれに抗議したことは認めるがその余の事実は否認する。

(18)について。

被告主張の日時頃、原告五十嵐が岩沼支店に行つたことは認めるが、その余の事実は否認する。すなわち、従組岩沼分会の分会員六名は当日一せいランチを行ない、日ごろ食事休憩更衣等のため従業員の自由な使用が認められていた従業員室で食事をし、折から挨拶のため同分会を訪れた他労組員二名と互に雑談していたところ、同支店長および同調査役次長の両名が、張紙を理由に右他労組員に出て行けと高圧的に迫つたので、岩沼分会員がこれに抗議し、さらに分会員の連絡により、同原告が亘理支部闘争本部から駆けつけて分会員らの抗議に参加したが、右抗議は正当であり紛争の原因は支店長らが従組員を訪ねた他労組員に対し不当に退去を求めたことによるものであつて、従組員が非難されるいわれはない。

(19)について。

被告主張の者が、その主張の日時頃、南町通支店を訪問し、支店長から退去を求められたことは認めるが、その余の事実は否認する。当日、従組員は仙台市内三支部共同の決定に基づき組織の点検、切崩し防止、ニユースの配布の目的で同支店の従組員を訪づれ、これに他労組員が同行したが、勤務時間中とはいえ、前述のとおり日頃客溜りから職員に声をかける程度のことは許されていたのであり、他労組員は客溜りで静かに待つていたのであるから、支店長らが他労組員の退去を求める理由はなかつたのである。しかも右訪問中、支店長は職員の一人に他労組員を無断で撮影させたので従組員らがこれに抗議したけれども支店長らのこのような不当な態度に抗議することは当然であつて何ら非難されるいわれはない。

(20)について。

白石支部従組員一名が伊具地区労事務局長として、地区労大会の決定に基づき、地区労三役と共に丸森支店に行き、同支店長に対し張紙に関する抗議交渉を行なつたことは認めるが、その余の事実は否認する。右抗議活動は地区労が行なつたものであつて従組とは全く関係がない。

(21)について。

伊具地区労の佐藤議長らが被告主張の日、角田支店に行き、同支店長に対し申入書を手渡し、その際同地区労事務局長をしていた前記白石支部従組員一名がこれに同行したことは認めるが、その余の事実は否認する。右従組員の行動は従組とは全く関係のないことである。

(22)について。

原告山田研二ら従組員四名が、被告主張の頃、当時地銀連から派遣されていた秋田職組の一名と共に、角田支店に行き、同支店休憩室で支店長と約三〇分間面会し、主として同原告が同支店長代理の行なつた従組の切崩し、同支店における従組員の不当な差別および不当な張紙について抗議交渉したことは認めるが、その余の事実は否認する。

(三)について。

否認。

4 労働協約違反の争議行為について。

(一)について。

従組が昭和三七年三月二八日仙台市内において、同年四月一〇日盛岡支店においてそれぞれ賃上げ要求のため、被告主張のような争議行為を行なつたことおよび昭和三七年三月二八日盛岡支店で争議行為を行なつたことは認めるがその余の事実は否認する。

三月二八日盛岡支店で行なつた争議行為は、賃上げ要求のためではなく、組織防衛のために行なつたものである。

従組は、被告に対し、同年二月二六日、賃上げ要求書を提出し、その要求事項について三月六日、一五日、一六日と三回にわたつて団体交渉の申入れを行なつたが、被告は従組が右賃上げ要求書に「地銀連七十七銀行従業員組合」と表示して上部団体である地銀連の冠称を付したことに言い掛りをつけてこれを拒否し、右要求書を返還したので従組は三月二二日地銀連の冠称を削除して再びこれを被告に提出したが被告の要求書の返還は全く理由のないことであるから、従組が賃上げ要求書を提出したのは二月二六日であることに変りはなく、そして被告は同日従組の要求事項を了知したのであるから、従組が要求書を提出した二月二六日から平和条項の期間を計算すれば賃上げ要求のための争議行為について従組に協約違反の事実は存在しないのである。

従組の争議行為がたとえ平和条項に違反したとしても、そもそも上部団体の指令による争議行為については下部組織の平和条項の拘束を受けないのであつて、従組の右賃上げ闘争は上部団体である地銀連の指令による統一闘争であるから、被告との間の平和条項違反の問題を生じないのである。

また労働組合が平和条項に定める手続違反そのものによつて生じた損害について賠償責任を負うことは格別、平和条項に違反した争議行為それ自体は民事免責を失うものではなく、これに参加した労働者が使用者との間の各個の労働契約によつてその実現を期せられる企業秩序違反の問題を生じないのである。

したがつて、従組の行なつた賃上げ要求のための争議行為について原告らが懲戒責任を問われる理由は全くない。

(二)について。

従組が、昭和三六年一〇月二六日被告の支配介入による分裂に対し、組織防衛と分裂排除のストライキ権を確立したうえ、翌二七日午後三時半から開かれた被告との団体交渉の席上、ユニオンシヨツプ条項に基づく除名者の解雇を求めた際、右組織防衛のための争議通告をし、同日以降組織防衛のための部分ストを行なつたのである。

しかしながら、被告の不当労働行為によつてまさに組織が破壊されようとしている緊急事態において、不当労働行為中止の要求を出してから三週間もの間、組織の潰滅を坐視しなければならない合理的理由はなく、したがつて、このような緊急事態においては平和条項の適用をみないのである。

また、本件労働協約上の平和条項は唯一交渉約款とユニオンシヨツプ約款を前提としているのであつて、被告がこれら約款に違反しているのに、従組にのみ平和条項の履行を強いる理由はない。

そして、協約違反の争議行為について労働者の懲戒責任を問い得ないことについては前記(一)で述べたとおりである。

(三)について。

否認。

5 委員長不当声明等について。

従組が、中央闘争委員会の決定に基づいて従組委員長原告菅原昭三の名で被告主張の内容を含む声明文をその主張の従組機関紙に掲載し、これを従組員および従組支援の地銀連傘下の各単組に配布したこと(ただし外部の一般人には配布していない)、被告主張の記載のあるステツカーが中新田町で張られたことは認めるが、その余の事実は否認する。

委員長の声明文中「大企業には優先融資と低金利、地元中小企業にはシメダシと高金利」という記事はすべて真実であり、このような真実を明らかにして預金をさせない、へらして行く活動、銀行の信用を失墜させる行動とは、いわゆるボイコツトを意味するのであつて、このような争議手段をとること自体憲法第二八条によつて保障されているのである。右声明文は被告の切崩しに対し、このような適法な争議手段の必要性を従組員に訴えたものであり、しかも、右争議戦術は具体化せず、被告に何ら損害を与えなかつたのであるから、従組の幹部が被告との関係で何んらかの責任を負わねばならない理由は全くない。なお、組合の役員なるが故に特別加重な懲戒責任を負うべき理由のないことは既に述べたとおりである。

また中新田町に張られたステツカーは従組とは別個独立の中新田守る会が作成貼布したものであつて、原告らが責任を負うべき余地は全くない。

二、について。

1について、一の5についてと同じ。

2について、事実は認めるが懲戒責任は否認。

3について、右と同じ。

4の(一)について一の3の(二)の(9)についてと同じ、(二)について懲戒責任を否認、(三)について事実は認めるが懲戒責任は否認。

5について、一の3の(二)の(4)についてと同じ。

6の(一)について一の3の(二)の(6)および(11)についてと同じ、(二)について事実は認めるが懲戒責任は否認、(三)について佐々木の(二)についてと同じ。

7について一の3の(二)の(17)についてと同じ。

8について否認。

9について佐々木の(二)についてと同じ。

第二について。

一、原告五十嵐。

1について。

同原告が、亘理支部書記長として、同支部闘争委員会の方針に基づいて、同支部執行委員会の責任において作成した被告主張のビラの配布の参与指導に当つたことは認める。そして、自ら行なつたという行為については第一の該当か所で述べたとおりである。しかし、同原告の懲戒責任は否認する。

2について。

(一)について。

被告主張の日、その主張のような臨店検査が行なわれたこと、同原告が被告主張の頃、三名の行員と共に二階休憩室でマージヤンを始めたこと、間もなく調査役次長からマージヤンを制止され、同人との間で言葉のやりとりのあつたことは認めるがその余の事実は否認する。

このマージヤンの件について、被告はその後本件処分に至るまで、一度も注意したこともなく、処分留保の通告などしなかつたのであつて、これは同原告を解雇するためのこじつけにすぎない。

(二)について。

被告主張の日前日再鑑を怠つた一〇万円束のうち一万円が不足するという事故を起したこと、その翌日なされた支店長の求めに応じて被告主張の日乙第二六号証の一の顛末書を提出し、その後更に求められて乙第二六号証の二の顛末補充書を提出したことは認めるがその余の事実はすべて否認する。

被告は本件事故について、故意又は重大な過失がないものとして、その損害を損失勘定で補填し、その後本件処分に至るまで始末書の提出その他いかなる処分もしくはその留保の通告さえしなかつたのであり、本件出納事故を解雇理由とするのは前同様こじつけ以外の何物でもない。

(三)について。

被告主張の日時にその主張の用務員が亘理支店に来店したことは認めるが、その余の事実はすべて否認する。

(四)について。

被告主張の日時頃「うるさいなあ」と独言した程度でその時は誰も全く意に介しなかつたものである。

これも同原告を解雇するための針小棒大の主張にすぎない。

(五)について。

当時、亘理分会は出納係を含む二名の人員増加を求めて職場協議会の開催を度度申し入れていたが、支店長はその都度これを拒否し被告主張の日の朝の申入れに対しても、単に「客が来ているから客の応待をせよ」というだけで、開催日時を特定した回答を行なわず、したがつてこのような誠意のない支店長の態度に対し、同原告が「不当労働行為だ」と抗議したとしても当然なことである。しかも通帳を机の上にたたきつけた事実はないのであつて、かりにそのような行為があつたとしてもそれは誠にささいなことであり、しかもその後本件処分まで何ら問題とされていなかつたのであるから、このことは前同様本件解雇のためのこじつけにすぎない。

(六)について。

被告は昭和三六年一一月四日の賃金の支払いに際し従組亘理支部の鎌田支部長と原告五十嵐書記長の賃金をカツトした。

そこで、同支部は本部の方針と指導に基づいて賃金カツトの不当なやり方に抗議するため、同月六日午前九時頃亘理支部員佐々木康照と原告五十嵐を亘理支店に行かせ、同支店長に対し同原告らに対する賃金カツトについて抗議させた。そして、両名が、「一方的に賃金カツトした責任は誰か、いかなる計算を基礎として行なつたのか」と質問したのに対し、支店長は「本部の命令でやつた、働いていないのだから当然だ」というのみで、原告五十嵐の賃金カツトの明細について一切答えなかつたのである。これに対し、同原告らが「自らカツトの根拠を説明し得ないのに本部などの命令があれば理由もなく賃金カツトするのは泥棒に等しいではないか」と追及したことは当然であり、また同原告らが支店長を脅迫したことはないのである。

(七)について。

原告五十嵐が亘理支店長に対し、昼一時間にしても出勤したのに欠勤扱いにしたことは不当であり、同原告がこれに抗議したことは当然である。しかし出勤簿を机の上にたたきつけたことはない。

二、原告佐久間。

1について、同原告が被告主張のとおり従組の役員であつたことは認めるが、その懲戒責任は否認する。

2について第一の一の3の(二)の(10)(15)および(16)について述べたと同じ。

3について否認。

三、原告山田研二。

同原告が被告主張のとおり従組の役員であつたことは認めるが懲戒責任については否認。その余については第一の該当箇所で述べたとおりである。

四、原告山田破魔雄。

同原告が被告主張の従組の役員であつたことは認めるが懲戒責任は否認する。

別紙 第五(抄)

前文

株式会社七十七銀行(以下銀行という)と七十七銀行従業員組合(以下組合という)は労働法規の精神に基づいてこの協約を締結する。

この協約は銀行及び組合が相協力して銀行業務の公共的使命に鑑み日本経済の再建と金融従業員の責務達成のため銀行経営の民主化と健全化とを図り従業員の執務能率の増進と社会的経済的地位の向上を期し併せて七十七銀行の発展に資することを目的とするものである。

この協約に含まれているすべての事項は銀行と組合及び組合員と組合員以外の従業員すべてのものに適用され互いに誠意をもつて履行することを確約する。

(就業規則の制定改廃)

第六条 銀行が就業規則を制定改廃する場合は予め組合と協議しその同意を要する

(組合専従者)

第一六条 銀行は組合が組合員を組合業務(組合が加盟している上級団体の業務を含む)に専従させることを認める

組合業務専従者の取扱いについては別に定める

(方針の決定)

第二一条 銀行は従業員の採用、配属、異動、昇給、昇格、教育、賞罰、休職、停年、解雇、職制その他人事に関する基本方針について組合と協議して定める

(解雇)

第二二条 銀行は左の場合を除いては如何なる場合にも組合の同意なくして組合員を解雇しない

一、自由意思によつて退職を申し出たとき

二、停年に達したとき

三、業務外の傷病による休職期間満了のとき

(休職)

第二三条 銀行が病気以外の理由によつて組合員を休職させる場合は予め組合の同意を得て行う

(組合役員の異動)

第二四条 銀行が組合の中央執行委員長、中央執行副委員長、書記長、中央執行委員及び支部長を異動せんとする場合は予め組合の同意を得て行う

(主要な人事)

第二五条 銀行が従業員の主要な人事を行う場合は予め組合に通知しその意見を徴する前項の主要な人事とは役付をいう

(採用)

第二六条 銀行が新たに従業員を採用する場合には組合はその詮衡に参加する

(賞罰)

第二七条 銀行が組合員を賞罰せんとする場合は予め組合の同意を得て行う

(目的)

第二八条 銀行と組合は経営の民主化とこの協約の円滑な運営をはかるため経営協議会を設ける

(附議事項)

第三一条 経営協議会では左の事項を協議する。

四、人事施行上の基本方針並びに主要なる人事の異動に関する事項

六、従業員の解雇、休職、賞罰、異動に関する事項

(開催)

第三三条 経営協議会は原則として毎月一回開催する。但し銀行又は組合のいずれか一方から申し入れがあつたときはその都度開催する。

(平和義務)

第四五条 銀行と組合との間に紛争を生じ又は生ずるおそれある場合は必ず経営協議会に附議し双方誠意をもつて解決に努力する

第四六条 銀行及び組合は経営協議会において三週間以内に解決を得られない場合でなくては争議行為に訴えない

別紙 第六

組合業務専従者の取扱に関する協定

労働協約第一六条により組合業務専従者の取扱について左の通り協定する

一、一般的事項

1 専従者は組合員二五〇名又はその端数につき一名の割合とする

2 専従者についてはその所属、氏名を組合より銀行に届け出る

3 専従期間は原則として一年とする但し事情により延長することがある

4 専従期間中は休職とする

二、身分保障について

1 人事関係

イ、専従者の身分、職名については従来のその身分、職名を保有する

ロ、昇給については専従者の故を以つて何らの不利益を与えない

ハ、退職金の期間計算及び永年勤続等の表彰の期間計算については専従期間も通算する

ニ、復職の場合は不利益な取扱をしない

2 給与関係

イ、専従者の給与は組合に於て之を負担する

但し福利、厚生等の目的を以つて支払われる諸給与は銀行が之を負担する

ロ、復職後支給される賞与報奨金等についてはその期間の計算には専従期間も通算する

ハ、専従期間中も祭祀料、厚生会の利用及報労物資等の特典は一般職員と同様とする

ニ、専従期間中も行舎の居住を認める

昭和二六年五月三〇日

株式会社七十七銀行

取締役会長 柏木純一

七十七銀行従業員組合

中央執行委員長 佐藤正一

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